奪われた命、守りたい心
2.出会い
「ただいま」
玄関のドアが開き、父の声が響く。いつもと同じ帰宅の合図だが、今日は少しだけ違った。
「おかえりなさい。あれ? お客さん?」
顔を上げると、父の隣に見慣れない男性が立っていた。背が高く、どこか落ち着いた雰囲気を纏っている。
「そう。後輩の橘颯真くん。」
父が笑いながらその男性を紹介する。颯真さんは軽く頭を下げ、柔らかい声で言った。
「初めまして。いきなりお邪魔してすみません。」
「初めまして、娘の大和春華です。……ちょっと、お父さん。お客さん連れて帰るなら一言連絡してよ」
私は軽く頬を膨らませて文句を言う。父は苦笑いしながら頭をかく。
「ごめんごめん! 二人で近くで飲んでたんだけど、飲み直そうと思ってさ。すっかり連絡忘れてたよ。橘くんは僕の後輩で、春華の5つ年上なんだよ。」
「そうなんだ。橘さん、ゆっくりしていってくださいね。」
颯真さんは少し照れたように笑い、「ありがとうございます」と返してくれた。その笑顔が、妙に印象に残った。
それ以来、颯真さんは時々家に訪れるようになった。父が一緒のときもあれば、父が帰宅するまで二人で話すことも増えた。颯真さんは気さくで、年上の余裕が感じられる人だった。私が大学の講義や日常の話をすると、興味深そうに耳を傾けてくれる。
「春華さん、本当にお父さんに似てますね。」
ある日、颯真さんがふとそう言った。
「そうですか? 私、全然似てないって言われることの方が多いんですけど。」
「いや、しっかりしたところとか、正義感が強いところとか、そっくりだと思いますよ。」
少し照れくさくなって、私は「そんなことないです」と笑ってごまかした。
颯真さんが家に来る日は、少しだけ特別だった。彼が訪れることで、普段よりも会話が弾み、家の中が明るくなる。父にとっても、信頼できる後輩との時間は何よりの息抜きのようだった。
しかし、私の胸の奥で、何かが少しずつ変化していくのを感じ始めていた。
颯真さんが父に向ける敬意の眼差し。時折見せる優しい微笑み。そして、ふとした瞬間に私のことを気遣ってくれる仕草。
そんな一つ一つが、私の心に小さな波を立てていた。
玄関のドアが開き、父の声が響く。いつもと同じ帰宅の合図だが、今日は少しだけ違った。
「おかえりなさい。あれ? お客さん?」
顔を上げると、父の隣に見慣れない男性が立っていた。背が高く、どこか落ち着いた雰囲気を纏っている。
「そう。後輩の橘颯真くん。」
父が笑いながらその男性を紹介する。颯真さんは軽く頭を下げ、柔らかい声で言った。
「初めまして。いきなりお邪魔してすみません。」
「初めまして、娘の大和春華です。……ちょっと、お父さん。お客さん連れて帰るなら一言連絡してよ」
私は軽く頬を膨らませて文句を言う。父は苦笑いしながら頭をかく。
「ごめんごめん! 二人で近くで飲んでたんだけど、飲み直そうと思ってさ。すっかり連絡忘れてたよ。橘くんは僕の後輩で、春華の5つ年上なんだよ。」
「そうなんだ。橘さん、ゆっくりしていってくださいね。」
颯真さんは少し照れたように笑い、「ありがとうございます」と返してくれた。その笑顔が、妙に印象に残った。
それ以来、颯真さんは時々家に訪れるようになった。父が一緒のときもあれば、父が帰宅するまで二人で話すことも増えた。颯真さんは気さくで、年上の余裕が感じられる人だった。私が大学の講義や日常の話をすると、興味深そうに耳を傾けてくれる。
「春華さん、本当にお父さんに似てますね。」
ある日、颯真さんがふとそう言った。
「そうですか? 私、全然似てないって言われることの方が多いんですけど。」
「いや、しっかりしたところとか、正義感が強いところとか、そっくりだと思いますよ。」
少し照れくさくなって、私は「そんなことないです」と笑ってごまかした。
颯真さんが家に来る日は、少しだけ特別だった。彼が訪れることで、普段よりも会話が弾み、家の中が明るくなる。父にとっても、信頼できる後輩との時間は何よりの息抜きのようだった。
しかし、私の胸の奥で、何かが少しずつ変化していくのを感じ始めていた。
颯真さんが父に向ける敬意の眼差し。時折見せる優しい微笑み。そして、ふとした瞬間に私のことを気遣ってくれる仕草。
そんな一つ一つが、私の心に小さな波を立てていた。