拳から恋
「っ……おっと、危ない……」
すんでのところでかわし、よろけたかのように見せてから、誰なのか見上げる。
黒髪……また知らない顔だ。
「初対面なのに何するんですかっ」
「……お前だろ。高架下の件の眼鏡野郎は」
──『アイツにバレちゃった』
この黒髪が……大月くんの言ってた
"アイツ"の正体か。
「そんなっ自分は何も──」
「俺の拳を初見で掠りもしねぇで、よけるヤツなんかいねぇんだよ……」
「いえ、偶々ですよ」
「……隠すなよ。よける時の目、怖がる目じゃねぇ。殺気を含んだ目だった。あれが本性だろ」
飄々と嘘をついてみたが、俯きがちにわたしを睨み付けて来る。
それにこの黒髪……わかってる。
咄嗟によけたわたしが一瞬で纏わせた、極道の血を。
ならここでの人違い作戦は無意味だ。