拳から恋

あ。


下に気を取られそうになるも、拳をまじえている最中。
よそ見するわけには……いかない。



「……ほらよ」


だけどすんなり、離れた黒髪くんは落ちたゴムを拾ってわたしの手のひらに乗せた。


「あ、ありがと」


ちょっと呆気にとられてしまったが、髪を結び直すため手櫛で纏めていると、黒髪くんは階段を下って行く。


「俺、風間巽(かざまたつみ)。お前は?」

「……花蔭聖」


「聖か。……来いよ、Sまで。またやろうぜ」


振り向きざまに少年のような笑みを向けて去っていった。


「……S」



これで二人目か──残すはあと一人。
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