Summer Love

始まりは突然に


「俺は、お前の事が嫌いだ」


そう校舎裏の夕日さす、猛暑の中。


とある女子生徒の、人生最大の告白。


運悪く、そう呟いてしまったのがきっかけだった。

或いは、物語の顚末だったのかもしれない。

でも、本心を言ってはいけないという決まりはない。


虫酸が走るぐらい、嫌いだから。


何故って?



まず最初、告白してきた理由を聞いた。

「"公務員"だから幸せになれそうだし、シンデレラに出てくる童話の王子様みたいだから」っていう嘘みたいな枕詞。


ーーー結局は、顔と年収だけってことか?


そして、日々の日常生活の面々での評価でーー。

何度も指導室に男を連れて、怪しく笑う姿を俺はしょっちゅう拝見し、話す内容も「イケメン以外に抱かれたくない」という下劣な中身ばかり。


まるでやめてくれと警察が頼んでいるのに道端に居座っているホームレスのように、不快な「悪魔の王女」。


この素行が悪い様子から、俺はこの生徒が道端に落ちているゴミよりも嫌いだ。





こういう厄介な相手の時は、はっきり断りを入れなければならない。


変なトラブルに巻き込まれたくないっていうのもある。




だが、この生徒はずっとつきまとってきた。



俺が何かするたびに「せんせえぇーー♡」と甘い声をだし、距離を詰めて話しかけてくるのだ。

正直、うざったい。

だが、ここは教師。



将来のことを考えてこのまま甘やかすと、この生徒の為にならない。



俺は大人としての対応として、処置をする役目を教師として、一人の大人として教えなければならい。


「だから、付き合えない」



震える細長い脚。



自慢気に飾りたいのか、極限まで折ったスカートと、真っ赤なリップを指している様子。


恋人を奪う不倫女如く、相当気合いが入ってるが、俺は直ぐに切り裂く。




でもぶっちゃけ、告白されたのは今回1回だけではない。


数えるほどバカらしいくらいにされたものだから、伝統芸能みたいなものだ。


いくつもの年を迎えて、30代近い同僚である先生達も裏庭で「告白された」と耳にするくらい、学生というのは盲目的だ。



だってその中には、全然顔がかっこいいと思えない同僚も「チョコ、ゲット!!」と自慢気に話す人もいるのだから。



たしかに、性格がいいから告白しているとは、一理あるとは思う。


だが、相手は20才も離れている大人を好きになるだなんて少し、現実的ではない。

むしろ、その年代だと「おじさん」、「おばさん」なのではないのか?

かけ離れすぎて、相手がまともに見えてしまう生徒の価値観が心配になるくらいだ。


そこを踏まえるとやはり生徒というのは案外単純で脆い人間である。


故に、俺達「教師」は「適切な態様」を直し、より良い道を示さなければならない。


「修先生……酷いっ!!そこまで言わなくたっていいじゃん!!」


取り乱す一連も、伝統芸能ならぬ茶番劇。

「はい、はい。そうかもな。でも、これは事実なんだよ。どちらにせよ法が俺を許さないし、お前にそもそも興味がない」


不服そうな顔をされたが、これは紛れもない事実だ。



「大人と子供では、結婚なんて出来るわけがない」



これが社会の現実であり、道理でもある。

それに「酷い」なんて呟かれても、俺にどうこう出来る筋合いはない。



元々先生と生徒なんだから、「恋愛よりも勉学に励む関係」として一緒にいるのだから、純愛に発展するわけないだろう。




「でも、告白してきた勇気は讃えてやる。こうして付き合うことは、不可能だがな」


こうして事実を答えてくれた故に、俺はハッキリと断りを入れる事が出来た。


これで、暫く縁は切れて平穏な日々を過ごせそうだから、感謝しきれない。


それが本音だ。

悲しみに暮れた、彼女の背中が振り向く。


ちょっとメイクが崩れた、悲しみモード顔が呆れを通り越し、喜劇を観ているみたいで。


ーーーどれだけの男を手玉に取ってきたのかも知らず、被害者面していることは立派なご都合主義だな、こいつ。

これまでとは比べものにならないくらい見下しの感情があふれ、鼻で笑う。


だが、その精神だけは見習っていきたい。


「何で俺は、こんな面倒くさいことに巻き込まれているんだろう」と呆れを通り越し、笑い出したいのを抑えて。




「じゃあ、先生は私のこと嫌いにならない?」



この期に及んで、まだそんな事を?


まったく、この生徒はどこまで、お花畑なのか……。

「あぁ、今すぐに嫌いになりそうだよ」と豪語しそうになった。



その言葉を一瞬飲み込んで、はにかみ一言。




「さっさと、失せたどうだ。馬鹿を言え。好きになるわけないだろ」









「ーーーと、おっしゃったんですか?修先生?」



職員室の教師皆が仰天する中、俺は包み隠さず「何か、問題でも?」と。



「えっと……なんというか……その………」



困り果てた、校長はこめかみに手を当てている。



「その発言は保護者や、生徒達にも誤解を与えてしまうので、取り消すってことはできませんかね?修先生」




取り消す?



どうして?




突っかかってきたのは、向こうの女子生徒だし、アンサーとして返しただけだ。



「反省する義理はあるんですかね?」



「えっと言い難いですが、保護者にも注意を受けてしまっていてですね、生徒達からも苦情が……」


ぶっちゃけ、もうこういうのは慣れた。


俺も毎回こうして、怒られるのにも顔を洗うみたいに習慣化している。



そして、「保護者」がとか言ってるけれど、その女子生徒の親であって、「保護者全員」が噛みついているわけではないのだ。



ーーー「さっさと失せたらどうだ。馬鹿を言え。好きになるわけないだろ」。



ここだけ切り取って、あの女子生徒は御託を並べて学校中に噂を流して、俺は今、公開処刑中。

チラホラと興味を占めてして、怒られる様子を面白がって高みの見物として、やってくる生徒達。


屈辱以外の何物でもない。

ーー何回も俺は、こんなミスを繰り返すなんて……馬鹿みたいだな。


でも、紛れもない本心だしーーーどうやってあの時、誤魔化せばよかったのか全く検討もつかない。


対策を考える気がない自分自身を知る事になり、またもやため息が口からこぼれ出た。


「でも、事実そうゆうもんでしょ?あの生徒は、前にも先生を落とし込めた、「悪魔であり女王」なんですよ?」



「気持ちは分かりますけど……相手は子供です。もう少し優しく断りを入れることはできませんかね?」

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