香りだけでなく
目が覚めたら見知らぬホテルのベッドの上だった。シングルではない。ダブルベッドだ。
私の寝ていた隣に誰か寝ていた形跡があった。
一体誰が?
今はそれより。
私は慌てて布団の中を探る。大丈夫。下着はつけているし、服もブラウスのボタンが少し外されているだけだ。
うう。頭が痛い。自分の息が酒臭い。これはかなり飲んだに違いない。
私は痛い頭で昨日のことを懸命に思い出そうとする。
私は誰とこのホテルに来たの? なぜこんなに飲んだんだっけ?
私はとりあえずベッドから出た。
ふわりと香水の残香が自分からした。ラルチザンのアンバーエクストリーム。私の大好きな香り。
「あ……」
ぼんやりと記憶が戻ってくる。
そう、確か、この香りがきっかけだった。
昨日仕事帰り、駅ビルを歩いている時に、
「あ」
と思わず声を出してしまった。
すれ違った男性からアンバーエクストリームの香りがふわりとしたからだ。
相手の男性も、私が同じ香水をつけてることに気がついたようだたった。
私たちはしばらく互いに見つめ合った。
その男性は三十代も後半ぐらいに見えた。落ち着いた優しげな雰囲気。でも、目は子供のような光を宿していて、そのギャップが素敵だと思った。高そうなスーツをうまく着こなしていた。
「失礼。もしや貴女の纏っている香りはアンバーエクストリームじゃないですか?」
男性が声をかけて来た。私はええ、と頷くと、
「好きな香水なんです」
と答えた。男性は魅惑的な笑顔を浮かべた。
「僕と同じだ」
私は数日前に失恋したばかりだった。なので、他の男性に惹かれるなんてあまりにも早すぎる。薄情だと思いはした。それでも、この男性のことを心から素敵だと思ってしまった。
「よかったら、この後、お酒でも飲みに行きませんか?」
彼の言葉に私は、
「ええ、ぜひ」
と答えていた。
ビルの12階にあったその雰囲気のあるバーは生まれて初めて行くような店だった。
大きな窓からは夜景が見渡せ、暗い照明はムードがあった。
私はカクテルグラスに注がれたカラフルなお酒を飲みながら、彼とラルチザンの香水について話した。
彼の口から出てくる香水の名前は私の好きな香水とほぼ同じで、こんなことってあるんだとドキドキした。まるで運命の出会いのよう。
お酒が甘くて美味しいのも手伝って、私はジュースを飲むような感覚でカクテルを飲み続けた。
初めて会った人の前で醜態を晒すほどに飲んでしまうなんて。
私は半分思っていたのかもしれない。彼となら寝てもいいと。
彼は12時を回った頃、私に肩をかして店を出た。そして、
「ホテルとろうか。かなり酔っているね」
と言って、近くにあったビジネスホテルに入った。
その後、ぐでんぐでんに酔っぱらった私を、彼は介抱してくれたのだった。
ホテルをとったのに何もせずに帰るなんて、私はそんなに魅力がないのだろうか。それとも酔っぱらった私に呆れてしまったのだろうか。
まあ、ビジネスホテルに入る時点で脈なしか。
はあ、と酒臭いため息をついて洗面所で身なりを整え、テレビの横に置いてあった自分のバッグを手に取ると、一枚のメモ用紙が絨毯の上に落ちた。
「仕事に行きます。楽しい時間をありがとう。香水だけでなく、君をもっと知りたい。良かったら連絡ください」
という文字と携帯番号らしき数字が書いてあった。
自然と頬が緩んだ。
良かった。嫌われた訳じゃない。それにゆきずりの関係を持つような人よりよっぽど良い。
私はその紙を大事にバッグにしまって、部屋を出た。
朝日が眩しい。
私は持っているバッグをクルクルと回して、最寄りの駅までの道を歩いた。頭痛はするけど、スキップしたいぐらいだ。残っている酒が私をハイにさせる。
こんな酒臭い状態で会社には行けない。今日は有給を使ってしまおう。そして、夜になったらあの人へ電話をかけてみよう。
考えるだけで顔がにやけて、鼻歌が出そうになった。
大好きな香水が呼んだ出会い。
きっと素敵な恋になるに違いない。
私の寝ていた隣に誰か寝ていた形跡があった。
一体誰が?
今はそれより。
私は慌てて布団の中を探る。大丈夫。下着はつけているし、服もブラウスのボタンが少し外されているだけだ。
うう。頭が痛い。自分の息が酒臭い。これはかなり飲んだに違いない。
私は痛い頭で昨日のことを懸命に思い出そうとする。
私は誰とこのホテルに来たの? なぜこんなに飲んだんだっけ?
私はとりあえずベッドから出た。
ふわりと香水の残香が自分からした。ラルチザンのアンバーエクストリーム。私の大好きな香り。
「あ……」
ぼんやりと記憶が戻ってくる。
そう、確か、この香りがきっかけだった。
昨日仕事帰り、駅ビルを歩いている時に、
「あ」
と思わず声を出してしまった。
すれ違った男性からアンバーエクストリームの香りがふわりとしたからだ。
相手の男性も、私が同じ香水をつけてることに気がついたようだたった。
私たちはしばらく互いに見つめ合った。
その男性は三十代も後半ぐらいに見えた。落ち着いた優しげな雰囲気。でも、目は子供のような光を宿していて、そのギャップが素敵だと思った。高そうなスーツをうまく着こなしていた。
「失礼。もしや貴女の纏っている香りはアンバーエクストリームじゃないですか?」
男性が声をかけて来た。私はええ、と頷くと、
「好きな香水なんです」
と答えた。男性は魅惑的な笑顔を浮かべた。
「僕と同じだ」
私は数日前に失恋したばかりだった。なので、他の男性に惹かれるなんてあまりにも早すぎる。薄情だと思いはした。それでも、この男性のことを心から素敵だと思ってしまった。
「よかったら、この後、お酒でも飲みに行きませんか?」
彼の言葉に私は、
「ええ、ぜひ」
と答えていた。
ビルの12階にあったその雰囲気のあるバーは生まれて初めて行くような店だった。
大きな窓からは夜景が見渡せ、暗い照明はムードがあった。
私はカクテルグラスに注がれたカラフルなお酒を飲みながら、彼とラルチザンの香水について話した。
彼の口から出てくる香水の名前は私の好きな香水とほぼ同じで、こんなことってあるんだとドキドキした。まるで運命の出会いのよう。
お酒が甘くて美味しいのも手伝って、私はジュースを飲むような感覚でカクテルを飲み続けた。
初めて会った人の前で醜態を晒すほどに飲んでしまうなんて。
私は半分思っていたのかもしれない。彼となら寝てもいいと。
彼は12時を回った頃、私に肩をかして店を出た。そして、
「ホテルとろうか。かなり酔っているね」
と言って、近くにあったビジネスホテルに入った。
その後、ぐでんぐでんに酔っぱらった私を、彼は介抱してくれたのだった。
ホテルをとったのに何もせずに帰るなんて、私はそんなに魅力がないのだろうか。それとも酔っぱらった私に呆れてしまったのだろうか。
まあ、ビジネスホテルに入る時点で脈なしか。
はあ、と酒臭いため息をついて洗面所で身なりを整え、テレビの横に置いてあった自分のバッグを手に取ると、一枚のメモ用紙が絨毯の上に落ちた。
「仕事に行きます。楽しい時間をありがとう。香水だけでなく、君をもっと知りたい。良かったら連絡ください」
という文字と携帯番号らしき数字が書いてあった。
自然と頬が緩んだ。
良かった。嫌われた訳じゃない。それにゆきずりの関係を持つような人よりよっぽど良い。
私はその紙を大事にバッグにしまって、部屋を出た。
朝日が眩しい。
私は持っているバッグをクルクルと回して、最寄りの駅までの道を歩いた。頭痛はするけど、スキップしたいぐらいだ。残っている酒が私をハイにさせる。
こんな酒臭い状態で会社には行けない。今日は有給を使ってしまおう。そして、夜になったらあの人へ電話をかけてみよう。
考えるだけで顔がにやけて、鼻歌が出そうになった。
大好きな香水が呼んだ出会い。
きっと素敵な恋になるに違いない。