許婚はヤンデレ御曹司でした。
第三話 二人きりの保健室
図書館の改装費用のことや漫画図書室については生徒会もいい決定を下してくれた。
だが、メイド喫茶帰りのストーカーの件や伊織くんがストーカー以上にストーキング行為を私にしていたことが発覚し、もう私の頭の中が混乱していた。
そんな時、私たちが所属する一流の上流階級だけが所属することを認められるSクラスに庶民の特待生が転入してくるということで、ほとんどの生徒は拒否感を表していた。
「どんな方でも、庶民がこのクラスに来るなんてねぇ」
「そうですわねぇ……詩織様はどう思われます?」
「一つだけ、疑問点はあります。庶民の方はどうして、このような学校を選ばれたのか。周りは上流階級の人間ばかりで、価値観は合わないでしょう。教育レベルは高いと思いますが、国立の高校もあるというのに、わざわざわが校のような私立を選ばれるとは不思議でなりませんわ」
「全く、その通りですわ!」
三村さんと伊川さんは私の言葉に賛同していたが、疑問に感じつつも付属大学の研究施設は日本一である。
それに上流階級とのパイプを作れるという意味でも、入学する意味はあるだろう。
担任教師と一緒に転入生は教室へ入ってくると、その場にいる全員が息をのむほどの美少女に驚いていた。
切れ長の目に整った顔立ち、素晴らしいプロポーションにまるでモデルのようで、男女問わず見惚れてしまった。
こんなかわいい女子がこの世にいるのかと思うぐらい容姿端麗だった。伊織くんの隣に立つなら、ふさわしいのは彼女のような女性だと思った。
だが、伊織くんは見惚れている様子はなく私の方を見て笑いかけてきた。
重すぎる愛は二次元だけで間に合っている。親が決めた許婚に向けるなんて考えたこともなかった。
「初めまして、百田凛子です。実家は定食屋をしています。仲良くしてもらいたいなって思ってます。趣味は……お料理です。実家の定食屋でも料理を作っているんですよ」
男子生徒はほとんどが彼女が話し始めると釘付けとなり、女子生徒は鼻に付くのか眉間に皺を寄せていた。
三村さんと伊川さんも同様に好ましいとは思っていないようだった。
「財前の隣が空いているな。そこに座ってくれ」
担任教師の言葉で女子生徒たちが一気に私へ向けてくる視線よりも、何倍も鋭い視線を彼女に向けていて、少しだけ気の毒だと思った。
伊織くんはいつものように笑顔で彼女にも対応していたが、百田さんは照れる様子もなく仲良さげに話していた。
休み時間になれば、男子生徒が彼女の席を囲んでいた。
あれだけの美少女が目の前にいたら、誰だって声をかけたくなるだろう。
「詩織様。あの女、顔がいいからって……調子乗りすぎじゃありません?」
「そう、かしら」
「えぇ。財前様がおられるのに、空気も読まず、注意もせず男子たちに囲まれて談笑なさるなんて」
伊織くんは真くんといつものように話をしているが、迷惑そうにしてはいない。
だが、たしかに男子が彼女を取り囲み若干やりづらさはありそうだった。
「詩織様がいつも気を遣い、財前様とは距離を置かれているというのに……」
「あれだけの厚かましさがなければ、この学校に入ろうと思わないのかもしれませんわね」
「変わってはいそうね、彼女」
「そうですよ、絶対!」
女子たちはいつの間にか私たちを囲み、悪口大会が始まった。
できれば、私も男子と同じく話しかけたい。
あんな美少女は生きていてもお目にかかれないレベルであり、芸能人とも顔を合わせたことがあるが、それ以上の逸材だ。
悪口を言わないように気を付けるが、どうも言わないといけない空気を感じる。
「詩織。大丈夫?」
「伊織くん……大丈夫だよ。どうしたの?」
少しだけ声を震わせながらいった。
まだ、あの日の記憶が忘れられない。
誰にも言わず家を出てきたのに、ヒーローみたいに現れた伊織くんが実はストーキング行為をしていて、私の行動を把握していた。
それだけでなく、メイド喫茶にも潜んでいたなんて信じられない。
まず、メイドさんたちは歓声をあげなかったのはなぜだ。あれか、メイドすらも買収していたのかもしれない。
「詩織ちゃん。顔が青くなってるけど、大丈夫か?」
「真くん。だ、大丈夫だよ」
「詩織。保健室へ行こうか」
別に卑猥でもなんでもないのに、彼の行き過ぎたストーキング行為の数々で漫画のように何かされるのではないかとドキドキとした。
彼に優しく手を掴まれると、私は伊織くんに手を引かれて保健室へ向かった。
「だ、大丈夫だよ」
「でも、顔が青い。もし、体の調子が悪いなら早退してもいいんだよ」
「別に大丈夫だよ。顔が青いのは……伊織くんが原因というか」
「僕が? どうしてだろう」
彼はわからないふりをしているのか、本当にわからないのかは分からないが、とぼけていた。
最近、彼に監視されていないかと周りを気にする癖がつき、寝ている時ですら気にしてしまう。
それを彼に言っても、おそらくストーキング行為を改善はしてくれないだろう。
「詩織。僕は君が心配なだけなんだ。だから、僕のことは気にしなくていいよ」
「気にするよ。だって、私のことをとうちょ……」
言いかけた言葉を遮られるように彼の大きな手のひらに口を塞がれた。
周りに誰がいるかわからない状況で彼のストーキング行為を示唆することを言うのは彼にとっては都合が悪いのだろう。
だが、よく考えてみてほしい。
都合が悪いなら、やらなかったらいいのではないか。
それを言おうとしても、彼の目の奥が闇が孕んでいる気がして私は何も言えなかった。
彼に手を引かれて保健室へ来ると、養護教諭があくびをして伸びをしていた。
「これはこれは、財前と霧生じゃないか。逢引きしにきたのか?」
「いえ、彼女が具合が悪そうだったので」
「そうか。女子だからな、貧血もあるだろう。無理はさせるなよ、若人」
養護教諭は別の仕事があるから、しばらく席を外すと言って出て行ってしまった。
いやいや、若い男女を二人きりに残して何も起こらないわけないじゃないか。
教師なのに、不純異性交遊を推奨するかのようにどこかへ行くなんて信じられなかった。
「体温、測ろうか」
「一人で平気だよ」
「もし、何かあったら大変だ」
「うん」
伊織くんの圧に負けて、彼は慣れた手つきで私の脇に体温計を挟んだ。
体温計が鳴るまで待っていると、彼は私の髪に触れてキスを落とした。
「詩織。二人きりだね」
「あ、そうだね」
「体調は平気? 顔色もさっきよりはマシになってるね」
悪口合戦から連れ出してくれたことは感謝している。
だが、彼のぎらついた瞳が私へ向けられていて、これから何かされそうだと直感的に感じた。
体温計が鳴ると、平熱だった。
彼は体温計を消毒すると、元の場所に戻した。
「平気だから、教室に」
「しばらく、ここにいよう。普段、一緒にいられないんだから」
「結婚したら、いつでも一緒に居られるよ」
「結婚してからの方が君と過ごす時間は少なくなるだろう、ね。仕事で忙しくなって、君は別の男を作るかもしれない。そして、その男と体の関係を持って、僕を捨てる可能性がある。ああ、それだけは嫌だ」
伊織くんの目は凍てついてるみたいで、体が震えそうなほどの恐怖を感じた。
彼が言っていることは、上流階級ではよくあることだ。離婚することは少ないけれど、夫婦関係がこじれてしまうことはよくある。
だが、私は恋愛すらよくわからないのに別の男を作るわけはないと思っている。
「伊織くん。私は、君を捨てたりしないよ。私が、私たちが、生まれた宿命には抗えないよ。生まれてからずっと、決められた道を私たちは走ってきた。大人になったからって、それから外れることは絶対にしない。だから、不安にならなくていいよ」
私が彼の顔を自分の方へ向けていうと、彼は安心したように私の肩に頭を乗せた。
「大好きだよ、詩織。愛している」
愛をささやいた彼は私の顎を掴んで、唇を重ねた。
最初は触れるだけの接吻が、啄むような激しいものに変わり、私は息ができず、頭が混乱していた。
「い……おり……くん……だめっ……」
「誰もいないし、いても見せつけてやればいいんだよ。君は僕のもので、僕は君のものだってことをね」
激しくなっていく接吻と共に伊織くんは私の膝を撫でた。スカートの中に手を入れようとした瞬間、扉が開いた。
「はい、お前ら~いちゃつくのはそこまでだ」
養護教諭の小山先生が帰ってきたのに、伊織くんは私の太ももをしなやかに手を滑らせて、撫でた。
「んっ……」
「おい、お前……本気かよ……」
伊織くんは舌を私の口内にねじ込み、小山先生に見せつけるように深い接吻をした。
さすがに酸欠になりそうだったので、伊織くんの胸を叩いた。
「ごめん。詩織」
「だ、ダメだよ……先生の前で、こんな……」
「そうだぞ。いやぁ、霧生の方はまともでよかったわ」
「小山先生。仕事じゃなかったんですか」
「ああ、もう用は終わったからな。つか、学園の王子様が保健室で婚約者の女とディープキスなんて、女子生徒が見たら泣くな」
小山先生は笑い飛ばしていたが、それは私の命の方が危ない。
垂れた唾液を拭き取ろうとすると、伊織くんは彼の指で私の口元を拭き取り、舐め取った。
「さすがに、それはないよ」
「霧生、ドン引きじゃねえかよ。お前らの交際には口は出さねえけどな。学校では不純異性交遊はやめとけよ。お前らの家がどれだけよくても、目くじら立てる頭の固い教師はいるからな」
「そうですね。詩織、行こうか」
「ちょっと、だけ……保健室に残るよ。伊織くんは授業に出て」
「わかったよ。小山先生、詩織には指一本触れないでくれますか」
「触れねえよ。触れたら、それこそ未成年淫行で俺が捕まるんだよ」
伊織くんは私にだけ笑顔を向けて、保健室から出て行った。
本当に小山先生のおかげで私の貞操は守られた。
もし、人が来ていなかったら最後までしていたのだろうか。
「霧生。嫌なら、もっと抵抗しろ」
「嫌でも、彼とは将来結婚します。拒否なんてしたら、これからの関係が壊れてしまいます」
「それでもなぁ……ずっと、男に主導権を握られることになるぞ。お前がそれでいいならいいけどな」
「嫌かどうかわからないんですよね。別に苦しかっただけで……」
「まあいい。嫌なら、あいつの金玉狙って蹴りを入れろ。そうしたら、逃げ出せる」
「ありがとうございます。肝に銘じます」
最近寝不足だから保健室で休ませてほしいと小山先生にお願いすると、適当なベッドで寝ろと言われ、私は昼休みまで休ませてもらった。
だが、メイド喫茶帰りのストーカーの件や伊織くんがストーカー以上にストーキング行為を私にしていたことが発覚し、もう私の頭の中が混乱していた。
そんな時、私たちが所属する一流の上流階級だけが所属することを認められるSクラスに庶民の特待生が転入してくるということで、ほとんどの生徒は拒否感を表していた。
「どんな方でも、庶民がこのクラスに来るなんてねぇ」
「そうですわねぇ……詩織様はどう思われます?」
「一つだけ、疑問点はあります。庶民の方はどうして、このような学校を選ばれたのか。周りは上流階級の人間ばかりで、価値観は合わないでしょう。教育レベルは高いと思いますが、国立の高校もあるというのに、わざわざわが校のような私立を選ばれるとは不思議でなりませんわ」
「全く、その通りですわ!」
三村さんと伊川さんは私の言葉に賛同していたが、疑問に感じつつも付属大学の研究施設は日本一である。
それに上流階級とのパイプを作れるという意味でも、入学する意味はあるだろう。
担任教師と一緒に転入生は教室へ入ってくると、その場にいる全員が息をのむほどの美少女に驚いていた。
切れ長の目に整った顔立ち、素晴らしいプロポーションにまるでモデルのようで、男女問わず見惚れてしまった。
こんなかわいい女子がこの世にいるのかと思うぐらい容姿端麗だった。伊織くんの隣に立つなら、ふさわしいのは彼女のような女性だと思った。
だが、伊織くんは見惚れている様子はなく私の方を見て笑いかけてきた。
重すぎる愛は二次元だけで間に合っている。親が決めた許婚に向けるなんて考えたこともなかった。
「初めまして、百田凛子です。実家は定食屋をしています。仲良くしてもらいたいなって思ってます。趣味は……お料理です。実家の定食屋でも料理を作っているんですよ」
男子生徒はほとんどが彼女が話し始めると釘付けとなり、女子生徒は鼻に付くのか眉間に皺を寄せていた。
三村さんと伊川さんも同様に好ましいとは思っていないようだった。
「財前の隣が空いているな。そこに座ってくれ」
担任教師の言葉で女子生徒たちが一気に私へ向けてくる視線よりも、何倍も鋭い視線を彼女に向けていて、少しだけ気の毒だと思った。
伊織くんはいつものように笑顔で彼女にも対応していたが、百田さんは照れる様子もなく仲良さげに話していた。
休み時間になれば、男子生徒が彼女の席を囲んでいた。
あれだけの美少女が目の前にいたら、誰だって声をかけたくなるだろう。
「詩織様。あの女、顔がいいからって……調子乗りすぎじゃありません?」
「そう、かしら」
「えぇ。財前様がおられるのに、空気も読まず、注意もせず男子たちに囲まれて談笑なさるなんて」
伊織くんは真くんといつものように話をしているが、迷惑そうにしてはいない。
だが、たしかに男子が彼女を取り囲み若干やりづらさはありそうだった。
「詩織様がいつも気を遣い、財前様とは距離を置かれているというのに……」
「あれだけの厚かましさがなければ、この学校に入ろうと思わないのかもしれませんわね」
「変わってはいそうね、彼女」
「そうですよ、絶対!」
女子たちはいつの間にか私たちを囲み、悪口大会が始まった。
できれば、私も男子と同じく話しかけたい。
あんな美少女は生きていてもお目にかかれないレベルであり、芸能人とも顔を合わせたことがあるが、それ以上の逸材だ。
悪口を言わないように気を付けるが、どうも言わないといけない空気を感じる。
「詩織。大丈夫?」
「伊織くん……大丈夫だよ。どうしたの?」
少しだけ声を震わせながらいった。
まだ、あの日の記憶が忘れられない。
誰にも言わず家を出てきたのに、ヒーローみたいに現れた伊織くんが実はストーキング行為をしていて、私の行動を把握していた。
それだけでなく、メイド喫茶にも潜んでいたなんて信じられない。
まず、メイドさんたちは歓声をあげなかったのはなぜだ。あれか、メイドすらも買収していたのかもしれない。
「詩織ちゃん。顔が青くなってるけど、大丈夫か?」
「真くん。だ、大丈夫だよ」
「詩織。保健室へ行こうか」
別に卑猥でもなんでもないのに、彼の行き過ぎたストーキング行為の数々で漫画のように何かされるのではないかとドキドキとした。
彼に優しく手を掴まれると、私は伊織くんに手を引かれて保健室へ向かった。
「だ、大丈夫だよ」
「でも、顔が青い。もし、体の調子が悪いなら早退してもいいんだよ」
「別に大丈夫だよ。顔が青いのは……伊織くんが原因というか」
「僕が? どうしてだろう」
彼はわからないふりをしているのか、本当にわからないのかは分からないが、とぼけていた。
最近、彼に監視されていないかと周りを気にする癖がつき、寝ている時ですら気にしてしまう。
それを彼に言っても、おそらくストーキング行為を改善はしてくれないだろう。
「詩織。僕は君が心配なだけなんだ。だから、僕のことは気にしなくていいよ」
「気にするよ。だって、私のことをとうちょ……」
言いかけた言葉を遮られるように彼の大きな手のひらに口を塞がれた。
周りに誰がいるかわからない状況で彼のストーキング行為を示唆することを言うのは彼にとっては都合が悪いのだろう。
だが、よく考えてみてほしい。
都合が悪いなら、やらなかったらいいのではないか。
それを言おうとしても、彼の目の奥が闇が孕んでいる気がして私は何も言えなかった。
彼に手を引かれて保健室へ来ると、養護教諭があくびをして伸びをしていた。
「これはこれは、財前と霧生じゃないか。逢引きしにきたのか?」
「いえ、彼女が具合が悪そうだったので」
「そうか。女子だからな、貧血もあるだろう。無理はさせるなよ、若人」
養護教諭は別の仕事があるから、しばらく席を外すと言って出て行ってしまった。
いやいや、若い男女を二人きりに残して何も起こらないわけないじゃないか。
教師なのに、不純異性交遊を推奨するかのようにどこかへ行くなんて信じられなかった。
「体温、測ろうか」
「一人で平気だよ」
「もし、何かあったら大変だ」
「うん」
伊織くんの圧に負けて、彼は慣れた手つきで私の脇に体温計を挟んだ。
体温計が鳴るまで待っていると、彼は私の髪に触れてキスを落とした。
「詩織。二人きりだね」
「あ、そうだね」
「体調は平気? 顔色もさっきよりはマシになってるね」
悪口合戦から連れ出してくれたことは感謝している。
だが、彼のぎらついた瞳が私へ向けられていて、これから何かされそうだと直感的に感じた。
体温計が鳴ると、平熱だった。
彼は体温計を消毒すると、元の場所に戻した。
「平気だから、教室に」
「しばらく、ここにいよう。普段、一緒にいられないんだから」
「結婚したら、いつでも一緒に居られるよ」
「結婚してからの方が君と過ごす時間は少なくなるだろう、ね。仕事で忙しくなって、君は別の男を作るかもしれない。そして、その男と体の関係を持って、僕を捨てる可能性がある。ああ、それだけは嫌だ」
伊織くんの目は凍てついてるみたいで、体が震えそうなほどの恐怖を感じた。
彼が言っていることは、上流階級ではよくあることだ。離婚することは少ないけれど、夫婦関係がこじれてしまうことはよくある。
だが、私は恋愛すらよくわからないのに別の男を作るわけはないと思っている。
「伊織くん。私は、君を捨てたりしないよ。私が、私たちが、生まれた宿命には抗えないよ。生まれてからずっと、決められた道を私たちは走ってきた。大人になったからって、それから外れることは絶対にしない。だから、不安にならなくていいよ」
私が彼の顔を自分の方へ向けていうと、彼は安心したように私の肩に頭を乗せた。
「大好きだよ、詩織。愛している」
愛をささやいた彼は私の顎を掴んで、唇を重ねた。
最初は触れるだけの接吻が、啄むような激しいものに変わり、私は息ができず、頭が混乱していた。
「い……おり……くん……だめっ……」
「誰もいないし、いても見せつけてやればいいんだよ。君は僕のもので、僕は君のものだってことをね」
激しくなっていく接吻と共に伊織くんは私の膝を撫でた。スカートの中に手を入れようとした瞬間、扉が開いた。
「はい、お前ら~いちゃつくのはそこまでだ」
養護教諭の小山先生が帰ってきたのに、伊織くんは私の太ももをしなやかに手を滑らせて、撫でた。
「んっ……」
「おい、お前……本気かよ……」
伊織くんは舌を私の口内にねじ込み、小山先生に見せつけるように深い接吻をした。
さすがに酸欠になりそうだったので、伊織くんの胸を叩いた。
「ごめん。詩織」
「だ、ダメだよ……先生の前で、こんな……」
「そうだぞ。いやぁ、霧生の方はまともでよかったわ」
「小山先生。仕事じゃなかったんですか」
「ああ、もう用は終わったからな。つか、学園の王子様が保健室で婚約者の女とディープキスなんて、女子生徒が見たら泣くな」
小山先生は笑い飛ばしていたが、それは私の命の方が危ない。
垂れた唾液を拭き取ろうとすると、伊織くんは彼の指で私の口元を拭き取り、舐め取った。
「さすがに、それはないよ」
「霧生、ドン引きじゃねえかよ。お前らの交際には口は出さねえけどな。学校では不純異性交遊はやめとけよ。お前らの家がどれだけよくても、目くじら立てる頭の固い教師はいるからな」
「そうですね。詩織、行こうか」
「ちょっと、だけ……保健室に残るよ。伊織くんは授業に出て」
「わかったよ。小山先生、詩織には指一本触れないでくれますか」
「触れねえよ。触れたら、それこそ未成年淫行で俺が捕まるんだよ」
伊織くんは私にだけ笑顔を向けて、保健室から出て行った。
本当に小山先生のおかげで私の貞操は守られた。
もし、人が来ていなかったら最後までしていたのだろうか。
「霧生。嫌なら、もっと抵抗しろ」
「嫌でも、彼とは将来結婚します。拒否なんてしたら、これからの関係が壊れてしまいます」
「それでもなぁ……ずっと、男に主導権を握られることになるぞ。お前がそれでいいならいいけどな」
「嫌かどうかわからないんですよね。別に苦しかっただけで……」
「まあいい。嫌なら、あいつの金玉狙って蹴りを入れろ。そうしたら、逃げ出せる」
「ありがとうございます。肝に銘じます」
最近寝不足だから保健室で休ませてほしいと小山先生にお願いすると、適当なベッドで寝ろと言われ、私は昼休みまで休ませてもらった。