元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。
モニカが左下を見つめながら話していると、アメジストのピンが目に入った。
デザインがバラルデール帝国で流行しているもので、彼女が皇宮で購入した記録にはなかったピンだ。
(あれ? ジョージア・プルメル公子からのプレゼントか?)
瞬間、脳が沸騰しそうになるが、俺は必死に怒りを沈めた。
嫉妬をしている暇はない。
彼女の心を掴むことに集中するべきだ。
「モニカ、俺は昔から人を信じない。メイドをつけたら下手な誘惑をされたり、毒を盛られそうになったこともあった。だから、自分で自分のことをやっている。だから、メイドがするような事は俺にもできる。俺が君の世話をしよう」
俺は自分の身の回りのことは自分でやっている。
だから、彼女のことも手伝える。
そのように、彼女と触れ合う時間を増やして心を通わせていければと思った。
「陛下が1番信用できません。私の世話とか言って、入浴の手伝いをしたいだけでしょ、変態ですね」
入浴の手伝いというか、一緒に入浴したい下心があったことがバレてしまった。
(流石はモニカだ⋯⋯察しが良い)
「じゃあ、君が俺の世話をしてくれ。いつでも、俺を殺せるぞ」
俺は机に置いてあるナイフを彼女に手渡した。
彼女は無言でナイフを受け取った。
「陛下、髪が長いので、切ってあげましょうか。これから、暖かい季節になりますわ」
モニカは天使のように微笑んでいた。
彼女からは殺意を感じないから、俺を殺す気はないと信じたい。
しかし、彼女は実は手先が不器用なのではないかという疑いが消えない。
きっと、カイザーに渡したハンカチは何度も練習した後のものだ。
練習中の刺繍したハンカチは、赤い血が飛び散っていた。
「本当か? 嬉しいな。君は本当に優しい妻だ。お願いするよ」
モニカが歩み寄ってくれた機会を逃してはいけないという気持ちと、手が滑って首を切られたらどうしようという思いが交差した。