元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。
♢♢♢
皆が寝静まる真夜中、私は城からの脱出を試みる事にした。
(あの隠し通路はもう使えない⋯⋯正攻法で表から出るか)
私の部屋の扉の前から微かな息遣いを感じる。
おそらく私の逃亡を恐れた陛下が配置したのだろう。
扉をそっと開けて、私はその騎士の耳元に囁いた。
「眠れないので、夜風に当たって少しお散歩がしたいのですが、ついて来てもらっても良いですか?」
灰色の髪に灰色の瞳をしたその若い騎士は頬を染めて頷いた。
(うまくいきそうね)
「皇妃殿下、夜も遅いので真っ暗ですよ。少し歩いたら、お戻りなられた方が良いかと思います」
「真っ暗でも、あなたがいるので大丈夫です。お名前を教えてください」
「アレン・ハイルです」
私はアレンの腕に絡み付きながら庭園の辺りまできた。
あと同じだけ歩けば城門の方まで行ける。
(この辺りで、この男を巻くか⋯⋯)
「アレン⋯⋯もう、季節的に暖かいと思ったのですが夜は少し寒いですね。私、花が好きでもう少しここにいたいのです。部屋からショールを持ってきて頂けませんか?」
「いや、でも、このような真っ暗なところに殿下を置き去りにする訳には⋯⋯」
どうやら、私の企みは上手くいきそうだ。
彼は私から目を離さないという皇命を承っているのに、もう私とここにデートでも来たような気になっている。
「では、アレンが私を強く抱きしめて温めてくれますか?」
「いえ、そういう訳にはいきません。すぐに取りに行って参ります」
アレンは顔を真っ赤にして、焦ったように蹄を返して城の方まで走って行った。
私はその隙に、一気にスカートをたくし上げ城門まで走った。
城門を守る騎士は左右に2人いる。
(これで上手く行くかはわからないけれど⋯⋯)
私は靴を脱いで、一個を思いっきり右側の草むらに投げ、もう片方を左側の池に投げた。
「何やつだ!」
2人の騎士はお互い頷きあい、音の鳴った方に散った。
(城門がガラ空きよ⋯⋯)