元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。
「姫様、ルミナは最期の時まで姫様と共にいます」
私の様子がいつもと違って、ルミナを不安にさせたようだ。
確かに私は生きる喜びを忘れて、マルテキーズ王家の為に動く道具だった。
風景はいつも白黒で、何も楽しいことなど何もなかった。
令嬢たちとのお茶会も楽しめず、王家の邪魔になる人間を引き摺り下ろすネタを掴んだ時だけ心が踊った。
馬車が止まり扉を開けると、そこには見たこともない程の沢山の花々に囲まれた皇宮が見えた。
花の香りが優しく私の鼻を擽り、私は思わず馬車を飛び降りた。
「素敵⋯⋯ここが私の新しいお家なのね⋯⋯」
思わず漏れた言葉に、レイ・サンダース卿がエスコートしようとした手を引っ込めた。
手を差し出してくれてたのに、美しい世界に惹かれて気が付かなかった。
「お前が、モニカ・マルテキーズだな」
低く重い声、肩までつきそうな黒髪にエメラルドグリーンの瞳が鋭く光る美しい獣のような男。
一目で彼が特別な存在の男だと分かった。
この帝国の若き君主アレキサンダー・バラルデールだ。