元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。
陛下は皇帝としての仕事をしっかりやっている。
女に溺れる訳でも、誰かを贔屓する訳でもない清廉潔白で公正な方だと評価されて然るべきだ。
ただ、争いが好きな一面を見られて暴君と呼ばれてしまっている。
「モニカは俺の心配をしてくれているのか? それは俺のことを好きだからじゃないのか? なぜ、逃げようとするのだ?」
私は気がつけば、またベッドで組み敷かれていた。
陛下ほど全世界の女は自分が好きだと勘違いしてしまう地位の方はいないだろう。
彼が豚のような見た目なら勘違いはしないが、皇帝の身分でなくても色気があって美しくモテそうだ。
私も美しく優しそうな彼が新しい主人だと思って浮き足だった。
エメラルドの瞳がじっと私を見つめてきて思わず目を逸らす。
「陛下の気まぐれな愛に付き合うのが怖いのです⋯⋯」
「気まぐれじゃない。俺は心から君を愛しくて大切に思っている」
陛下はずるい方だ。
私は愛していると言われるより、愛しいとか大切と言われる方が嬉しいらしい。
陛下がゆっくりと唇を重ねてきて、私は目を閉じてそれを受け止めた。
「ここまでです。陛下、これ以上、約束を反故にする事は許しません」
私は陛下に私の心を得ないのに抱くことはないという約束を守らせる事にした。
「許しませんって⋯⋯じゃあ、何もしないから一緒に眠ろう。モニカが逃げないように見張らないと」
そういうと、陛下は私の隣に寝そべり、私を強く抱きしめた。
「陛下⋯⋯流石に強く締め付けすぎです。朝起きた時には私は窒息死してますよ」
私の言葉に陛下は少し笑って優しく抱きしめなおしてくれた。
私は陛下の爽やかな香りを嗅ぐと安心して、そのまま眠りについた。