元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。
「どうしてですか? 私をずっと避け続けていたではないですか。それに、私に陛下を愛することは不可能です。私の心に少しでも寄り添ってくれるなら、離縁してください」
「それは、できない⋯⋯」
掠れた声で絞り出すように伝えてくる陛下は、おそらくスレラリ草の危険性を正しくは理解していなかった。
陛下が憎いけれど、自衛できなかった私も悪い。
陛下とずっと食事がしたかったのに、全く楽しくなかった。
「マルキテーズ王国でも、政務会議には出ていたのか?」
「はい⋯⋯でも、ここは勝手の分からないバラルデール帝国なので今日は見学しますね」
陛下がずっと私に申し訳なさそうな顔を向けてくる。
早いところ私に飽きて離縁してくれないだろうか。
私は彼を見る度に自分が2度と子を産めない現実を叩きつけられる。
政務会議の議場はマルテキーズ王国の3倍はある広さだった。
私と陛下が入場した途端、貴族たちが注目する。
「陛下⋯⋯皇妃殿下を同席させるのですか?」
「皇妃にはバラルデール帝国に関心を持ってもらいたい⋯⋯今日は見学だ」
私はやはりランサルト・マルテキーズの娘ということで警戒されている。
私は椅子をひかれ、陛下の隣の席についた。
「陛下、早速ですが、プルメル公爵家の保有していた第2騎士団についてです。副騎士団長のスラーデン伯爵を騎士団長に推薦したいのですが」
開会するなり挙手をしたミレーゼ子爵の意見に周りが拍手する。
「まあ、それが妥当だろ⋯⋯」
私は陛下が了承しようとしたので、思わず席を立った。
「笑わせないでください。第2騎士団は解体するに決まっているでしょう。そもそも騎士団長が反逆者ですよ。当然、腰巾着の副騎士団長も断頭台への階段を半分上がっているような方でしょ」
「皇妃殿下、なんと無礼な!」
「無礼とは目下のものに扱う言葉遣いです。バラルデール帝国の貴族の程度が知れますね。時に、レイモンド・プルメル公爵の名でルカラド王国に武器の横流しがされていた事をご存知ですか?」
私の言葉に周囲がざわめき出す。
マリリンも私に対して上から目線だったが、ここにいる男たちも同じようだ。
バラルデール帝国は力が強大過ぎるせいか、他の国を軽く見ている節がある。
私が皇妃でも、所詮小国の元王女。
その上、陛下が私を1ヶ月以上も無視していた事から、私の事を皆軽んじているのが丸わかりだ。
寵愛を受けていない妃に気を遣う必要もないと思われているのだろう。