元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。


「そのような、おかしな名前では呼ばん。それから、結婚式もする予定はない。とりあえず貴族どもが煩いから黙らせる為に皇妃を娶っただけだ」

 私自身、陛下が「モモ」と呼んでくれるとは期待していなかった。

 ただ、犬であった時の謙虚さを忘れないように主人になる彼には「モモ」と呼んで欲しかっただけだ。

「房事は月に1回で、1回目が今晩だ。準備しておけ」
「はい。分かりました。陛下⋯⋯」

 いわゆる初夜が今晩ということで、私は緊張してきてしまった。

 もう、夜遅いので食事を取って入浴を済ませ次第、陛下をお待ちすることになった。
 どうやらアレキサンダー皇帝とは別々に食事を取るらしい。

 食事のサーブは若草色の短い髪に憂いを帯びた薄茶色の瞳をしたメイドがしてくれた。

 彼女は体がガッチリしていて、メイド服が八切れそうだ。
 膝下に覗いでいる足も、筋肉質で思わず見入ってしまった。
 彼女からは女性らしくない鉄のような匂いがする。
(失礼だから尋ねられないけれど、女性よね⋯⋯)
 
「あれ? この食事は何か草のようなもので味付けしていますか?」
 私は出された白身魚のマヒマヒを食べながら、サーブしてくれたメイドに尋ねた。

「いえ⋯⋯モニカ様がどのようなものを好まれるか分からないので、シェフは特別な味付けはしていないと申しておりました」

 私は彼女の声が見た目からは想像できない高い女性の声で安心した。

 メイドは私から目を逸らしながら呟く。
 味はほとんど素材の味だが、なんだか草の匂いがするのだ。

「そのような困った顔をしないで。私は美味しいと伝えたかったのよ」
「そうですか⋯⋯」

 先程のメイドは、食事のサーブだけでなく私の入浴の手伝いもしようとしてきた。
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