元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。
「私、マルキテーズ王国から、専属のメイドを連れてきているのだけれど彼女はどこに行ったのかしら?」
「すみません、私の方では分かりかねます。私が、今日から専属メイドを務めさせて頂きます。クレアと申します」
ここに来てから、ルミナともレイ・サンダース卿とも引き離されてしまっている。
クレアはやり過ぎなくらい、丁寧に私の体を洗った。
少し彼女の手の力が強過ぎて、「痛いです⋯⋯」と呟いたら触れるか触れないかの力に弱めてくれた。
(腕もムキムキなのね⋯⋯働き者なのかしら⋯⋯)
「えっ? ちょっと、そんなところまで洗うのですか?」
「お体に何か隠されていないか、確認しなければならないので」
私からまた目を逸らして、体を洗うクレアに申し訳ない気持ちになった。
彼女だって頼まれて仕方なく、他人の洗いたくない箇所まで手を突っ込まされている。
まるで、囚人のような扱いを私にしなければならなくて気まずいのだろう。
そのような事をされてしまうのは、私がマルテキーズ王国の姫で陛下を害する可能性があると疑われているからだ。
実際、私は犬としての記憶が蘇らなければ、陛下の命を狙っていた。
クレアが私の体に香油を塗ろうとしてきたので、私は手で制した。
「ごめんなさい。体に匂いがまとわりつくのが苦手なので何も塗らないでいただけますか?」