元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。
彼女は俺の子を産んで、その子を後継者に指名させた後に俺を暗殺する気なのだろう。
そうすれば、1番簡単にマルテキーズ王国がバラルデール帝国を乗っ取れる。
(自分の体まで使って、なんて毒婦だ⋯⋯⋯)
「バラルデール帝国の皇妃になる女がそのような事を言うなんて、はしたないと思え。房事の回数は変えるつもりはない」
俺がガウンを着て立ち去ろうとした時、床に結婚誓約書が落ちているのが見えた。
本来ならば、結婚誓約書は結婚式の時にサインするものだ。
「結婚誓約書を机に置いておくから、後でサインして提出するように」
机に結婚契約書を置いて立ち去ろうとすると、シーツを体に巻きつけた彼女がすぐ後ろまで来ていた。
(気配を消していた? やはり、普通の女ではない⋯⋯)
「早く、陛下の妻になりたいので今サインします」
頬を桃色に染めて、彼女は羽ペンにインクをつけてサインをし出した。
その横顔はうっすらと微笑んでいて、真っ白なウェディングスドレスを着ている女神のように見えた。
はらりと体に巻きつけているシーツがはだけそうになり、慌てておさえてやった。
「ありがとうございます。陛下は、お優しいですね。サインしました。宜しくお願いします。ご主人様」
ご主人様などと変な呼び方をしてきたので注意をしようとしたが、彼女が俺を慕うような目で見つめてきて気がつけば許していた。
結婚誓約書には既にサインしてあった俺の名前の隣に、彼女の名前が書いてあった。
(衝撃だ⋯⋯見た目からは想像できない字の汚さだ⋯⋯)