元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。


 騎士団の練習が終わろうとしていたので、陛下に声をかけてお茶に誘おうと思った。

 瞬間、風を切る鋭い音が近づいてきた。
(ナイフ⋯⋯サンダース卿がナイフを投げたわ)

 レイ・サンダース卿は兄のお気に入りで、マルキテーズ王国御用達の暗殺者だ。
 昨夜から会えなくて、どこにいるかと思っていたら狙いを定めていたようだ。
 彼は彼で兄からアレキサンダー皇帝を狙うよう密命を受けていたのだろう。

「アレキサンダー」

 私は稽古を終えたアレキサンダー皇帝に飛びかかった。
 レイ・サンダース卿は一流の暗殺者で、人が気を抜く瞬間を見逃さない。
 稽古を終えて陛下から一切の殺気が消えた時を狙った。

 もしかしたら、もっと賢い助け方があったかもしれない。
 ルイをおじさんを噛んで助けた時のように、私の選択はきっと最良ではないだろう。

 背中に鈍い痛みを感じる。
 きっとナイフに塗ってあった毒のせい。
 体が毒に侵食されていくのを感じた。 
 意識が遠のいて自分の体から力が抜けていった。

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