元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。


 彼は伸びた前髪をいじりながら頷いた。
 私は議場での会話が聞こえなかったフリをしながら、彼と一緒に城の庭園まで来た。

 「あっ! タンポポです。可愛い⋯⋯」
 私がしゃがみ込んで発した言葉に、アレクが吹き出した。

 「雑草じゃないか。花が好きな君のために沢山春の花を植えさせたんだ。チューリップ、ヒヤシンス、スイトピーにマーガレット⋯⋯あとで、花束にして君の部屋に送ろう」

 確かに皇宮の庭園の花は色とりどりで美しい。
 どれも最高級品を揃えていて、手入れも行き届いている。

 それよりも、庭師が摘みそびれた雑草に目が行くのは私が前世で捨てられた雑種犬だったからだろう。

「花の命は短いので、切ったら可哀想です。それよりも、アレクとまたここに散歩に来たいです」

 急に彼に抱きしめられて、私は顔を上げようとしたが彼が泣いているのがわかってやめた。

「俺は取り返しのない罪を犯した。愛するモモになんてことをしてしまったんだ⋯⋯」
「今、悩んでますよね。私はアレクが新しく妻を迎えても平気ですよ。その方とも上手くやってみせます」

 風が吹いて、タンポポの綿毛が舞い上がるのが見えた。

 また、新しい命が始まろうとしている。

 私のプラチナブロンドの髪が風にで広がりそうなところをアレクがそっとおさえた。

 私が後継者を産めなければ、彼が他の女を迎えなければならないのは仕方がないことだ。
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