元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。
おそらく私に刺さったナイフがマルテキーズ王国で作らたものだとわかったのだろう。
そのせいで、暗殺未遂がサンダース卿の仕業だと判明してしまったのだ。
私のせいで兄のお気に入りの彼を死に追いやってしまった。
「陛下は、ずっと私の側にいてくれたんですか?」
「いや、今朝、母上が亡くなって⋯⋯なんとなく、君も死ぬのではないかと思い覗きにきただけだ」
私は自分が5年前、母エミリアーナを失った時のことを思い出した。
王女の私が人前で泣くわけにもいかず、悲しむ間も無く葬儀の準備もしなければいけなくて苦しかった。
「陛下⋯⋯泣いても良いのですよ。国葬の準備は私がします。今日はもう休んでください」
私はどうにか、気だるい体を起こし彼を抱きしめた。
彼が私の背中にそっと手を回してくる。
彼のお母様の身に何があったのだろう。
バラルデール帝国において、私の記憶にある限り彼の母タルシア皇后は表舞台に出てこなかった。
もしかしたら、元々お体が弱い方だったのかもしれない。
「いや、休む訳にはいかない。今晩は弟カイザーの誕生日の舞踏会がある。母上の死は、明日以降に頃合いを見計らって公にするつもりだ」