元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。
⋯⋯1年前⋯⋯マルテキーズ王城⋯⋯
父に呼ばれて国王の執務室に向かう。
鼻歌混じりに何やら楽しそうな父は、私を見るなり口元を歪め悪い顔をした。
私と同じプラチナブロンドの髪に空色の瞳をした父ランサルト・マルテキーズは野心家だ。
ランサルト・マルテキーズの治世になってから、父は他国を攻め続け現在のマルテキーズ王国は先代の治世の2倍の大きさになった。
「モニカ! バラルデール帝国の若造皇帝がお前を皇妃にしたいと言ってきた。愚かだな⋯⋯お前を人質にすればマルテキーズ王国が攻めてこないとでも思っているのだろう」
「本当に愚かですね。しっかりと役目を果たしてきますわ、お父様。全てはマルテキーズ王国の為に」
父の考えは特に指示を貰わなくても、手に取るように分かった。
私の役目は夫になるアレキサンダー・バラルデールを籠絡すること。
(彼を私の美貌で虜にするか、毒を少しずつ盛るか⋯⋯)
18歳で成人したばかりの私を所望してくるなんて、アレキサンダー皇帝は女嫌いだと聞いていたけれど所詮は盛りのついた男だったようだ。
父の執務室を出ると、空色の髪と瞳をした兄のマルセル・マルテキーズが壁に寄りかかっていた。
「アレキサンダー皇帝陛下も、結局お前の美しさに手を伸ばしたくなったのだろうな。お前が、恐ろしい毒針を持ったハチだとも知らずに」
私は生まれた時から父からは、兄である彼の為に生きるように教えられてきた。