元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。
「このような夜明け前にどうしたのですか?」
「皇妃殿下、それはこちらのセリフです⋯⋯」
私は5歳のルイを知っているが、もっと子供らしいヤンチャな子だった。
カイザー皇子はとても落ち着いていて、大人っぽい。
「実は眠れなくて⋯⋯ご存知の通り、僕の母親はタルシア・バラルデール前皇后に長期に渡り毒を盛った罪人です。罪人の子である僕がここにいて良いのか悩んでいたのです」
「長期に渡り毒を盛っていたというのは、女を不妊にする為の毒ですか?」
「はい⋯⋯」
命とは非常に大切なものなのに、女たちは常に毒を盛っている。
醜い弱肉強食のような世界だが、皆、自分の子の地位と立場を守るのに戦っている。
「そのようなものは、どこの王族の女も盛っています。罪人だなんて思わないでください。あなたにとっては優しいお母様だったのではないですか?」
「そうです⋯⋯優しい母上でした」
唇を震わせながら、必死に泣くのを耐えている殿下を抱きしめたくなったた。
でも、嫌がられるかもしれないと思っていたところに、地面に白い蛇がいるのを見つけた。
私は蛇を手の腕に絡ませ、殿下に見せる。
「ほら、お洒落な白い蛇のブレスレットですよ」
「な、何を言ってるのですか? その蛇には毒がありそうですよ」
私は彼に笑ってもらいたかったのに、引かれてしまった。
「毒蛇なんですか? とても綺麗な色をしている生物は毒があるものが多いのですね」
「多分、毒があるので、すぐにでも蛇を遠くへやってください」
「大丈夫ですよ。どんな生き物も自分や自分の家族を守る為にしか攻撃はしてきません」
カイザー皇子のお母様も、自分の子の立場を守る為に必死だっただけだ。
私は殿下があまりに怖がっているので、そっと蛇を地面に離した。
すると、蛇は花の間をすり抜けて、土の方に潜っていった。
(まだ、寝足りなかったのかしら⋯⋯)
「どうぞ、これで手を拭いてください」
カイザー皇子が差し出してくれたハンカチを受け取ろうとした時、強い風が吹いた。
ハンカチは空に舞い飛ばされてしまった。
そのハンカチには明らかに丁寧な皇家の紋章と皇子のイニシャルが刺繍してあった。
(絶対、大切なハンカチだわ。お母様からのプレゼントかも⋯⋯)