元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。


「皇子殿下、申し訳ございません。ハンカチを拾って参ります」
 私はそういうと、ほのかに香るカイザー皇子の香りを頼りにハンカチが風に吹かれた方に走った。

 「あった⋯⋯」
 ハンカチは池に浮いている。
 まだ、薄暗いけれど、ハンカチが白かったお陰で私は見つけることができた。

 私は靴を脱いで、池に入った。
 池が深くなったら、犬かきでもすれば良いだろう。
(あれ? 犬かきは犬時代にもしたことなかった⋯⋯)

 ようやっと、ハンカチに手が届いた。
 運が良いことに池は膝くらいまでの深さで浅かった。
 実は水が冷たかったようで、足元から体が冷えて寒さを感じてくる。

 後ろから水飛沫の音がして、爽やかな陛下の香りがした気がした。
 急に強く抱きしめられて、振り向くと陛下がいた。
 (あ、温かいわ⋯⋯)
< 53 / 159 >

この作品をシェア

pagetop