元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。
「皇子殿下、申し訳ございません。ハンカチを拾って参ります」
私はそういうと、ほのかに香るカイザー皇子の香りを頼りにハンカチが風に吹かれた方に走った。
「あった⋯⋯」
ハンカチは池に浮いている。
まだ、薄暗いけれど、ハンカチが白かったお陰で私は見つけることができた。
私は靴を脱いで、池に入った。
池が深くなったら、犬かきでもすれば良いだろう。
(あれ? 犬かきは犬時代にもしたことなかった⋯⋯)
ようやっと、ハンカチに手が届いた。
運が良いことに池は膝くらいまでの深さで浅かった。
実は水が冷たかったようで、足元から体が冷えて寒さを感じてくる。
後ろから水飛沫の音がして、爽やかな陛下の香りがした気がした。
急に強く抱きしめられて、振り向くと陛下がいた。
(あ、温かいわ⋯⋯)