元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。
「陛下?」
「何をやってるんだ⋯⋯君はバラルデール帝国の皇妃なんだぞ」
「申し訳ございません」
私は咄嗟に謝った。
王女として育てられた記憶しかないなら、このようなおかしな行動はとらなかった。
しかし、犬としての記憶が蘇ってから人の為に何かしたいという気持ちが強い。
その上、明らかに発想が野生動物のようになっている。
(犬のモモ時代も飼い犬だったのになぜ⋯⋯)
気がつけば私は陛下にお姫様抱っこされて、岸まで連れてかれていた。
ゆっくり地面に下ろされて、私は濡れた足のまま靴を履く。
「ありがとうございました、陛下。ご心配おかけしました」
蚊のなくような声でお礼を言うが、陛下が呆れてそうで顔が見られない。
ワンピースの裾が水を吸ってしまって、少し重い。
カイザー皇子も心配そうな顔で私を見ている。
(確かに心配するよね⋯⋯こんな変な人が皇妃で平気かなって思うよね⋯⋯)