元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。
何も知らないと思っていたカイザーが、スレラリ草の毒を自分の母親が使っていることを知っていて驚いた。
(何も知らなかったのは俺の方だ⋯⋯)
楽しそうに蛇を腕に巻くという奇行をする皇妃が心配になった。
その上、彼女は飛んでったハンカチを走って追って池まで入って行った。
(王女として育てられたのではないのか? なぜ、そのように野生的なんだ?)
皇妃が拾いに行ったのは、カイザーが彼の母親から貰ったハンカチだ。
彼はまだ幼くて表には出せなくても、亡くなった母親を今も想っていたのだろう。
そして、カイザーは皇妃を「姉君」と呼び、彼女からのハンカチが欲しいと言っていた。
(本当に人の心を捉える天才だな⋯⋯モニカ・マルテキーズ)
彼女は花が好きなように見えたので外にガーデンテーブルを設置して、そこで朝食を一緒にとる事にした。
しばらくして、現れた彼女は真っ白なシンプルなワンピースを着ていた。
俺と食事をする女は皆、朝や昼だろうとドレスで着飾って現れた。
皇妃は美しいから着飾る必要がないのだろう。
彼女に宝石をプレゼントしたくても、どれも彼女の輝きに負けてしまう気がする。
それでも、俺は彼女にドレスをプレゼントして、着飾ってみたいという不思議な気持ちになった。
女にも宝飾品にも興味がなかった自分の変化に戸惑ってしまう。
「アレキサンダー・バラルデール皇帝陛下に、モニカ・マルテキーズがお目にかかります」
「次からはその挨拶は省略してくれ。時間の無駄だ」
俺がついそっけなく発してしまった言葉に、彼女は天使の微笑みで返してきた。
明らかにジョージア・プルメル公子やカイザーの方が彼女と距離が近くなっている。
俺は危険だと思いながらも、彼女と少しは親密になりたいと思っていた。
皇妃は椅子を引かれると、優雅に席に着いた。
その振る舞いや、仕草は見惚れる程に美しかった。
(やはり、王女として育てられているのは間違いない⋯⋯)