元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。
もしかしたら、昨晩は満月だったから皇妃の中の野生の血が騒いで行動がおかしくなったかもしれない。
浮かんだ自分の考えの突飛さに思わず吹き出しそうになった。
ふと視線を感じると、彼女が女神のような優しい眼差して俺を見ている。
(彼女を好きにならない男なんているのだろうか⋯⋯)
なんだか、もう降参して彼女を想いの儘に愛して、滅ぼされる時は滅ぼされても良いような感覚に襲われた。
もう1000年の歴史があるのだから、バラルデール帝国も俺の代で終わっても良いような気さえしてくる。
クレアが食事を運んでくるのを見ると、皇妃が彼女に徐に話しかけた。
「クレア、昨日は会えなかったけれど、体調不良でしたか?」
クレアには本職の暗殺を昨日は依頼していた。
皇妃の連れてきた専属メイドのルミナは怪しい点がなかったので、祖国より連れてきたメイドを彼女の側においてやろうと思った。
その話をクレアにもしたのに、なぜ彼女は今食事のサーブに来たのだろう。
しかも、食事のサーブは本来なら食事係がする仕事だ。
「この、かぼちゃのスープも草の香りがする。陛下、もしかして帝国伝統の香りづけだったりしますか?」
俺は思わず、彼女のかぼちゃのスープを叩いてひっくり返した。
黄色いシミが彼女の白いワンピースに広がっていく。
「陛下⋯⋯大丈夫ですか?」
「いや、すまない。食欲がなくて俺のものを食べてくれ。クレア、これからは皇妃が連れてきたメイドが世話をするから君は下がってくれ」
俺は皇妃が火傷したかも確認もせず、彼女の前から逃げるように立ち去った。
俺は自分の母親を不妊にしただけでなく、死まで追い詰めた毒草を彼女に盛ってしまった。
何度くらい、彼女はスメラリ草の成分を接種してしまっただろう。
(ほとんど意識不明で倒れていたから、食事回数は2回くらいか?)
執務室に戻り仕事に没頭しようとするも全く集中できない。
かぼちゃのスープがかかって熱かったかもしれないのに、俺を心配そうに見つめていた彼女の空色の澄んだ瞳が忘れらない。
(全く、仕事に集中できない⋯⋯)
「補佐官、午後の政務会議まで留守にするから、午前の謁見は全てキャンセルしろ」
「仰せのままに」
俺は皇妃の部屋に向かった。
彼女が大火傷を負っているかもしれないと不安になる。
ノックをして皇妃の部屋に入ると、彼女は俺を見るなり嬉しそうに駆け寄ってきた。