元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。
「陛下、お忙しいのに私に会いにきてくれたのですか?」
俺は彼女に酷いことばかりしているのに、懐かれていることが不思議で仕方がない。
俺を籠絡するための演技だとしても、このまま彼女に溺れてしまいたくなる。
彼女は淡いクリーム色のワンピースに着替えていて、それもまた柔らかい彼女の雰囲気に似合っていた。
「今朝は、すまなかった。火傷はしなかったか?」
「皇宮医にも診て頂きましたが、大丈夫でしたよ」
俺を心配させないように、痩せ我慢をしている気がして俺は彼女のワンピースをめくろうとした。
「陛下、ダメです。実は月のものが遅れていて、もしかしたら陛下の赤ちゃんがお腹にいるかもしれません。皇宮医に聞いたら、こんな早くには分からないと言われてしまったんですけど⋯⋯」
頬を染めながら彼女が言った言葉に固まった。
(スレラリ草が効いてしまったのか? 月のものが止まった?)
1度生まれた疑念に俺は不安になった。
「そのクリーム色のワンピースも似合っているが、君にドレスと宝飾品もプレゼントしたいんだ」
「お気遣いありがとうございます。陛下のお好きなドレスで、次回の房事はお迎えしますね。懐妊していなかったらですが⋯⋯」
俺は彼女の中で自分が相当いやらしい人間だと思われている事に衝撃を受けた。
(初夜にしつこくしすぎたからか?)
そのような意図で話しているのではないと言い訳しようかと思ったら、机の上にハンカチに刺さった針と糸が見えた。
(早速、カイザーへのプレゼントを作っていたのか⋯⋯)
俺が机の方に近づこうとすると、彼女は慌ててハンカチを隠そうとした。
「ま、まだ、練習中なのです。見ないでください」
「練習中?」
王女であった彼女は刺繍など家庭教師がついて学んでいるはずだ。
よく見ると彼女の指は針の刺し傷がたくさんあった。
俺はすかさず机の上のハンカチを取り上げた。
(めちゃくちゃだ⋯⋯しかも、赤い血が飛び散って)
「赤い水玉模様になってしまいました⋯⋯ちゃんとしたものをカイザー皇子には送ります。お恥ずかしいものを見せてしまい申し訳ございません」
顔を真っ赤にして俯いている皇妃が愛おしい。
完璧で、恐ろしく頭が切れる悪女だと聞いていたが、噂に惑わされていたのかもしれない。
(不器用なのか? なんだか、可愛い⋯⋯)
「花嫁修行をサボっていたのか? 仕方がないな⋯⋯後で、刺繍の教師をつけよう」
「あの! どうぞソファーに座ってください。紅茶を淹れるのは得意なので、飲んで頂けますか?」
必死に挽回しようとしている皇妃が可愛すぎた。
俺はソファーに座り彼女が優雅な所作で淹れた紅茶に口をつける。
彼女の淹れてくれた紅茶は芳醇で濃くがあるのに、香りは優しくホッとした。