元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。


「ふふっ! 来年のお兄様の誕生日プレゼントはアレキサンダー皇帝陛下の首で宜しいですか?」

 「なかなか洒落たプレゼントを考えてくれるじゃないか。愛しい僕の妹は⋯⋯」

 私の腰まで伸びる髪を優しく撫でてくる兄の手に身を委ねた。

 なぜだか、昔から髪を撫でられるのが好きだ。

「お兄様のお気に入りのレイ・サンダース卿を連れて行きますよ」
「いいだろう。確かにベストな人選だ」

 焦茶色の髪をした、レイ・サンダース卿は常に虚な目をしているが暗殺術に長けている。
 今までも、彼には兄の命令で多くの邪魔者を秘密裏に処理してきた実績がある。
 きっと彼は目的を達成する役に立つだろう。

 私は専属メイドのルミナを連れていくことにした。
 青色の髪に琥珀色の瞳をした彼女は物心つく時には私の側にいてくれた人だ。

 母を亡くしてからは、私にとってルミナは母親代わりのような女性だ。
 恐縮する彼女に無理を言って、馬車の隣の席に座らせた。

 バラルデール帝国に向かう途中、馬車に揺られ深い森に入った。
 木々が鬱蒼としていて、まだ夜でもないのに暗い。

「姫様、この森を抜けると、やっとバラルデール帝国領のようです」

 初めて家族と離れるからか、不安と言いようのない恐怖に囚われている。
 家族同然に思っているルミナにせめて側にいて欲しいと思い寄り添った。

(この気持ちは何なの? 森に入ってから不安な気持ちが抑えられない)
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