元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。
政務会議で、俺がレンダース領への出兵は見送ると言ったら周囲はどよめいた。
(相当、争いが好きな血を好む暴君だと思われているな⋯⋯)
そして、レイモンド・プルメル公爵が苦虫を潰したような表情をするのを俺は見逃さなかった。
俺の父アルガルデ・バラルデールが死んだのも俺の出兵中。
俺の留守中に彼がやりたい放題している事には気がついていた。
結局、理由をつけて皇妃と一緒にディナーをする約束を断ってしまった。
一緒にいれば居るほど、脳が溶けて彼女のことしか考えられなくなる。
少し冷静になり、彼女のことを客観的に考える時間が必要だと思った。
「補佐官、カイザーを呼んでくれないか?」
俺は5歳の弟が自分は孤立していると寂しく言っていたのを思い出したのだ。
扉をノックしてひょこり現れたカイザーは見たこともないくらい嬉しそうな表情をしていた。
「兄上、お呼びでしょうか」
「ああ、少し話そうと思ってな。まあ、座れ。ところで、何かあったのか?」
カイザーは表情管理ができてなかったと反省したようで、慌てて感情を隠し無表情になった。
「実は、先程まで姉上とお茶をしていたのです。ハンカチも頂きました」
彼が見せてくれたハンカチには綺麗に皇家の紋章とイニシャルが刺繍してあった。
(この短時間で上達したのに、なぜ、今までできなかったんだ?)