元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。


 ガタン!

 馬車が大きく揺れて、馬に乗り並走していたサンダース卿から声をかけられた。

「姫様、溝に馬車の前輪がはまったようです。1度、馬車をお降り頂けますでしょうか」

「分かったわ」

 なぜだか、馬車を降りるのが怖いと感じた。
 私をエスコートしようとしたサンダース卿の手をギュっと握りしめてしまう。
 彼の焦茶色の瞳が不思議そうに揺れていた。

 馬車の外に出た途端、木々や土の匂いと鳥や遠くで吠える獣の声を感じる。
 森の中が騒がしく感じるのはなぜだろう。
 木や土の匂いも意識したのは初めてだった。
 (私の感覚が異常に鋭くなってる?)

 瞬間、前世で2度目に捨てられた時の記憶が走馬灯のように蘇るのを感じた。
 あの時も、森の中だった。
 私はこの世界ではない日本という国で生まれた雑種犬だった。
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