元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。


「モモみたいな見窄らしい雑種犬より、お洒落なトイプードルとか、可愛いチワワを買ってあげるから」

 私を動物愛護センターから引き取ってくれたお母さんが、車から私を出してお気に入りの桃色の首輪を外す。

「僕はモモがいいよー」

(大好きだった、6歳の男の子ルイ⋯⋯)

「モモは人に噛みついた馬鹿犬だろ。こういう場所で野良犬をやっている方があっているんだよ。今度はラブラドールレトリバーとか、賢い犬を飼おう」

 休日の散歩担当だったお父さんが、私から離れようとしないルイを抱っこして車に乗せた。

 私を置いて離れて行く車を必死に追いかけたが、見えなくなった。

「わん、わん!」

 私はずっと車が去った方向に何日も歩き続けた。

「わ⋯⋯ん⋯⋯わ⋯⋯」

 雨が体を濡らし、空腹で足が止まり私は死んだのだろう。

 私が噛みついたのは、近所の悪いおじさんだ。
 おじさんはルイのような幼い子に悪戯をしていた。
 私は彼にルイが連れてかれそうになったので、その腕に噛みついた。

 おじさんは、ルイの両親に私を殺処分するように要求し慰謝料を払わせた。
 私は他の犬とは違い、人間の言葉を理解できた。
 それでも言葉を発して状況を説明しようとしても、吠えることしかできなかった。
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