元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。


 陛下が紅茶のカップを片付けようとした私の手首を強く掴んでくる。
 射抜くような目付きで見られて、戸惑ってしまう。

 彼が望む言葉はなんだろう。
 
 出会う前から、ずっと陛下をお慕いしていて愛される日を夢見ておりましたなどと言えればよかったかもしれない。

 主人である彼にそんな嘘はつきたくなかった。

 嘘や偽りで相手を惑わすことなど容易いと思っていた。

 でも、それは目的の為に使う自分の偽りの姿であって、寄り添いたい相手の前では自然体でいたい。

「申し訳ございません。私の知識不足で不妊になる毒草の成分を接種してしまいました。房事とは後継ぎをつくる為の場です。私にお役目は果たせません。もし、欲を満たしたいだけなら高級娼婦でも呼んでください」

 自分でも無礼なことを言っている自覚はあった。
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