元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。


 ふと、「寵愛を受けている幸せな側室」と国民からは羨望の眼差しを受けていた母を思い出した。

 しかし、私は母が実は父にとって娼婦やペットと変わらないものだったと私は知っている。

 君主となる人間とは、どこまでも自分のことしか考えられないようだ。
 周りが常に自分に合わせてくれるから仕方がないのかもしれない。

 陛下もそのような君主と変わらないように見えてくる。
 私と陛下は碌に会話もしていない間柄だ。
 それなのに、彼は房事の際には訪れてきて私を虚しくさせる。

「俺をどのような男だと思っているんだ⋯⋯俺は心の伴わない行為など虚しいだけだと考えている。皇妃の望み通り、そなたの心が得られない限りは俺はそなたを抱かない。ここで失礼するよ」

 陛下はそういうと、サッと部屋を出ていった。

 彼が私の心なんて気にしたことがあったのだろうか。

 確かに初めて彼に抱かれた時は私は彼を求めていた。

 新しい主人に愛されたいと、必死にしがみついた。

 そのような私の想いを無視し続けたのは彼自身だ。

 
 


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