元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。
「いえ、ジョージは私がこの店を見ていたから連れて来てくれたのですよね。ありがとうございます。実は悩んでいて⋯⋯」
ジョージが合図をして、店員を下がらせた。
特別室に彼と私の2人きりになる。
「大丈夫?」
「大丈夫です。ただ、皇妃として貴族令嬢と交流を持つのに、流行のジュエリーを把握しようと思って⋯⋯宝飾品も服も詳しくなくて⋯⋯同年代の令嬢と自然な会話ができる自信がないのです」
私がこのように弱みを見せられるのはジョージだけだ。
周囲から友人がいないことを悟られないように、まるで1人が好きな孤高の存在のように振る舞ってきた。
「カイザー皇子の誕生日の舞踏会でつけていた、サファイアのネックレスはとても格式があって素敵でしたよ」
「あのネックレスは母から受け継いだもので、古臭くさいデザインで恥ずかしかったです」
「誰かに言われましたか? 古臭いなどと考えているのはモニカだけだと思います。おそらく多くの方にとっては格式があって素敵なものに見えていたと思いますよ」
私はジョージにそう言って貰えてホッとした。
「話題については、宝飾品に拘ることはないと思います。それにしても、護衛も連れずに街を出るなんて危ないですよ」
「実は皇宮から、こっそり抜け出して来ました。昔から得意なんです。抜け出して探検するのが⋯⋯」
「じゃあ、もっと探検しましょうか」
ジョージは立ち上がって私の手を取った。
扉を開けたところで待っていた彼の侍従が差し出して来たのは2つのウィッグだった。
「さあ、ウィッグを被って、これなら君だとバレませんよ」
ジョージと私は茶髪のウィッグを被った。
(お揃いで何だか姉弟みたい)
私は胸の鼓動が早くなるのを感じた。
「どこに連れてってくれるのですか? 私は街中をもっと散策したいです」
「仰せの通りに、僕はモニカの犬になると決めましたからね」