元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。


 「私、また捨てられたんだ⋯⋯」
 今の私は言葉が発せられる。

 人間になることにずっと憧れていた。

 人間になれたら大切な人を守る為に噛み付くのではなく、もっと賢い手段を取れる。

 私はマルテキーズ王家から捨てられた。

 父に王家の為、兄の為に生きるように育てられたが、私はアレキサンダー皇帝に撒かれた餌に過ぎない。

 5年前に私を王太子にしたがっていた母が亡くなった。
 私自身は国を支配したいなどと言う野望はなく、ただ愛されたいだけだった。
 だから、立太子した兄に尽くした。
 父と兄の役に立てば、必要とされて大切にされると思ったが甘かった。

 必死に彼らの為に動いた結果、捨てられているのだから目も当てられない。
  
 私は意気揚々とアレキサンダー皇帝を陥れようと決意し、帝国行きの馬車に乗り込んだはずだった。

 バラルデール帝国が滅ぶような日には、皇妃になる私も生きてはいられないだろう。

 私の死など、父や兄にとっては織り込み済みのはずだ。
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