野いちご源氏物語 第三巻 空蝉(うつせみ)
源氏(げんじ)(きみ)はとてもお眠りになれない。
「私はこのように女性から嫌われたことがない。今夜初めて、世の中はこれほどつらいものかと知った。死んでしまいたいほど恥ずかしい」
とおっしゃるので、お隣で横になっている小君(こぎみ)まで悲しくなって泣けてくる。
源氏の君はそれをご覧になって、かわいらしい子だとお思いになったわ。
姉弟(きょうだい)だからか、髪の感じや、ほっそりした体つきがよく似ているような気もなさるの。

「これ以上しつこく言い寄るのはみっともないだろう。それにしても強情(ごうじょう)な女だ」
と思いつづけていらっしゃる。
まだ夜明けまで間があるのに屋敷を出発された。
いつもはかわいがっている小君にも冷淡(れいたん)になさるので、小君は源氏の君がお気の毒で、さみしいとも思う。

女君(おんなぎみ)もさすがに申し訳なく思っていらっしゃったけれど、源氏の君からお手紙は来ない。
「もう見限(みかぎ)られたのだろう」
と安心する一方で、
「このままご連絡が途絶(とだ)えて終わってしまうのは悲しい。かといってあのような無茶なおふるまいが続くのも困る。やはりこのあたりで静かに終わっていくのがよいのだろうか」
と思い悩んでいらっしゃったわ。
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