君の代わりに恋をする
第11話 佐倉さんだからだよ
「頑張れー!」
試合は想像以上に激しい攻防を繰り広げていた。
点を取られては取り返し、取られては取り返し、ルールもよく知らない私でさえ、どちらもレベルの高いプレイをしていることがわかる。
私も目一杯声を出し、応援する。はじめは大崎くんの頑張っている姿を見たくて応援にきたが、それだけでなく、このチームが、メンバーが必死に戦っている姿に感動してる。
「頑張れっ!」
「……」
進藤くんはただ黙ってじっと試合を観ていた。
残り時間十五秒。スコアは同点。
その時、大崎くんが相手選手からボールを奪い、前に出てコートを駆ける。
パスが次々と繋がれ、大崎くんにボールが戻ってきた時、相手をかわし、ゴールに向かってシュートを打つ。
「入って……」
だが、ボールはゴールのリングにあたり跳ね返る――相手選手がすかさずリバウンドする。
残り二秒、終了のホイッスルが鳴る直前、相手選手が自コート側からシュートを放つ。
ボールは大きな放物線を描き、シュパッと音を立てながらゴールへと吸い込まれていった。
「あっ」
ピ――――
試合終了のホイッスルが鳴った。
「……負け、た」
「負けた、ね……」
相手チームは歓声をあげている。
大崎くんたちは、黙って汗を拭い、息を乱したまま立ち尽くしていた――。
次の試合が始まるころ、私と進藤くんは体育館を出た。
ちょうど、バスケ部員たちも出てきたところだった。
「大崎くん! お疲れ様」
「佐倉さん……応援、ありがとね。負けちゃった」
「すごく惜しかったね。でも頑張ったよ、感動した!」
「でも、負けは負けだから」
「大崎、かっこよかったよ」
「蓮……」
大崎くんは眉をひそめる。涙をこらえているみたいだ。
やっぱり勝ちたかったよね、悔しいよね。
もっと気持ちをぶつけてもいいんだよ、そう言おうと思ったその時、マネージャーの先輩が少し離れたところから声をかけてきた。
「陽介、ミーティングするよ!」
「はい!」
大崎くんは先輩に返事をすると、申し訳なさそうに私たちの方を向く。
「ごめん、今からミーティングがあるんだ。今日は来てくれてありがとう。じゃあ」
小さく手を挙げ、みんなのところへ戻っていった。
「やっぱり、ちょっと元気なかったね」
「まあ、仕方ないよね」
「大崎くん待って、三人で帰らない?」
「そうしようか」
進藤くんと二人で、体育館の出口近くにあるベンチに座り、大崎くんを待つ。
試合は負けてしまったけど、すごく頑張っていた。かっこよかった。
最後まで諦めない真剣な姿に感動した。
この気持ちをもっとたくさん伝えたい。
ミーティングが終わったようで、部員たちが、それぞれ帰っていく。
私たちは大崎くんが通るのを待っていたが、なかなか来ない。
「大崎来ないね。迎えに行く?」
「ちょっと見にいこうか」
先ほどミーティングをしていた場所へ見に行った。 そこには大崎くんと、マネージャーの先輩二人だけが残っていた。
そして二人は、抱き合っていた。
「え……」
「は?」
いや、よく見ると腕を回しているのは先輩だけで、抱き合ってはいない。
こちらに背を向けている大崎くんの表情はわからないけれど、肩は小さく震えていて、もしかすると泣いているのかもしれない。
先輩は、大崎くんの背中をポンポン、と撫でる。
「俺が、あの時シュートを決めてれば、勝てたかもしれない」
「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれない。途中もっと決められそうな場面だってあった。負けたのは陽介のせいじゃない」
「でも、先輩たちにとっては最後の大会だったのに」
「私たちだって、今まで悔しい思いをした先輩たちを見送ってきた。もし、陽介が後輩たちに自分と同じ思いをさせたくないなら、来年は頑張ってよね」
大崎くんは鼻をすすり、小さく嗚咽を漏らす。
私たちには気づいていない。どうしようか、声かけないほうがいいかな、と思っていた時、顔をあげた先輩と目が合った。
先輩は私のことをじっと見る。その表情が、すごく敵意を向けられているような気がした。
すると先輩は両腕を大崎くんの腰に回し、今度は本当に抱き着いた。
「陽介なら大丈夫だよ」
「先輩……」
大崎くんも嫌がる様子はなく、受け入れている。
「は?! ちょっと」
「し、進藤くん、帰ろう」
私は二人の前に出て行こうとする進藤くんの腕を掴み、駅の方へと歩き出す。
「あの人さぁ、僕たちのこと気づいてたよね?! わざと抱き着いたよね?! 見せつけるようにしてさ」
「そう、だね」
「大崎も大崎だよ。試合に負けて悔しいのはわかるけど、あれはだめでしょ」
「でも、バスケのことはあの先輩のほうがよくわかってるだろうし、部活ってそういうものなのかも」
「そういうものじゃないでしょ!」
進藤くんはすごく怒っている。
もちろん私も彼女という立場からするとすごくいやだ。でも、私はあんなふうに大崎くんをなぐさめることはできない。
きっと、今までずっと見守ってきた先輩だからこそかけられる言葉があるし、そんな先輩だからこそ、大崎くんも心の内をさらけ出せるのだろう。
「僕、あの先輩気に入らない」
気に入らない、そうはっきり言える進藤くんは本当に大崎くんのことが好きなんだと思う。
私は、大崎くんに気持ちを吐き出せる相手がいてよかったと思ってしまった。
それが私だったらすごく嬉しいけど、そうじゃなくても仕方ないと思えた。
「ねえ進藤くん、私たちが見てたこと大崎くんに言ったらだめだよ」
「ええ、言いそう」
「だめだよ」
「わかったよぉ」
あの先輩のことはすごく気になるけど、もう今日で引退なんだろう。
三年生は受験で忙しくなるだろうし、もうこんなことはなくなるはずだ。
私たちはミーティングの前にすぐ帰ったことにして、何も見なかったことにしよう。
それで月曜日、大崎くんに会ったら笑顔でお疲れさまって言おう。もう一度、かっこよかったよって伝えよう。
「進藤くん、もしあの先輩が大崎くんの彼女でも私と同じことお願いしてた? したことを再現するってやつ」
「するわけないじゃん。佐倉さんだからだよ」
「私だから?」
「ちょろそうだったから」
「え! ひどい!」
「うそだよ。佐倉さんになら、僕の気持ちを言ってもいいかなって思ったからだよ」
それって、私のことを信頼してくれているということだろうか。
いや、BLが好きだってことがばれたからかも。
「そういえば、そろそろ私のノート返してよ。もういいでしょ」
「もう忘れたのかと思ってた」
「忘れてないよ! 続き書きたくてうずうずしてるよ!」
「まだ読んでる途中なんだよね」
まさか、全部読もうとしてる?!
すでにけっこう読んでたのはわかってるんだけど、今さら読まないでって騒ぎ立てたりもしないけど……。
「読んでて面白い?」
「面白いよ。佐倉さんの癖がよくわかって」
「っ!」
やっぱり読まないでほしいかも。
「佐倉さんはもっと男の本心を知るべきだね」
「じゃあ教えてよ」
「やだよ」
進藤くんはクスリと笑う。私のことをバカにしているわけではなく、ただ楽しそうに笑う。
私も、楽しかった。進藤くんになら、こんな自分をさらけ出せる。
そんな心地良さを感じながら、二人で電車に乗って帰っていった。
試合は想像以上に激しい攻防を繰り広げていた。
点を取られては取り返し、取られては取り返し、ルールもよく知らない私でさえ、どちらもレベルの高いプレイをしていることがわかる。
私も目一杯声を出し、応援する。はじめは大崎くんの頑張っている姿を見たくて応援にきたが、それだけでなく、このチームが、メンバーが必死に戦っている姿に感動してる。
「頑張れっ!」
「……」
進藤くんはただ黙ってじっと試合を観ていた。
残り時間十五秒。スコアは同点。
その時、大崎くんが相手選手からボールを奪い、前に出てコートを駆ける。
パスが次々と繋がれ、大崎くんにボールが戻ってきた時、相手をかわし、ゴールに向かってシュートを打つ。
「入って……」
だが、ボールはゴールのリングにあたり跳ね返る――相手選手がすかさずリバウンドする。
残り二秒、終了のホイッスルが鳴る直前、相手選手が自コート側からシュートを放つ。
ボールは大きな放物線を描き、シュパッと音を立てながらゴールへと吸い込まれていった。
「あっ」
ピ――――
試合終了のホイッスルが鳴った。
「……負け、た」
「負けた、ね……」
相手チームは歓声をあげている。
大崎くんたちは、黙って汗を拭い、息を乱したまま立ち尽くしていた――。
次の試合が始まるころ、私と進藤くんは体育館を出た。
ちょうど、バスケ部員たちも出てきたところだった。
「大崎くん! お疲れ様」
「佐倉さん……応援、ありがとね。負けちゃった」
「すごく惜しかったね。でも頑張ったよ、感動した!」
「でも、負けは負けだから」
「大崎、かっこよかったよ」
「蓮……」
大崎くんは眉をひそめる。涙をこらえているみたいだ。
やっぱり勝ちたかったよね、悔しいよね。
もっと気持ちをぶつけてもいいんだよ、そう言おうと思ったその時、マネージャーの先輩が少し離れたところから声をかけてきた。
「陽介、ミーティングするよ!」
「はい!」
大崎くんは先輩に返事をすると、申し訳なさそうに私たちの方を向く。
「ごめん、今からミーティングがあるんだ。今日は来てくれてありがとう。じゃあ」
小さく手を挙げ、みんなのところへ戻っていった。
「やっぱり、ちょっと元気なかったね」
「まあ、仕方ないよね」
「大崎くん待って、三人で帰らない?」
「そうしようか」
進藤くんと二人で、体育館の出口近くにあるベンチに座り、大崎くんを待つ。
試合は負けてしまったけど、すごく頑張っていた。かっこよかった。
最後まで諦めない真剣な姿に感動した。
この気持ちをもっとたくさん伝えたい。
ミーティングが終わったようで、部員たちが、それぞれ帰っていく。
私たちは大崎くんが通るのを待っていたが、なかなか来ない。
「大崎来ないね。迎えに行く?」
「ちょっと見にいこうか」
先ほどミーティングをしていた場所へ見に行った。 そこには大崎くんと、マネージャーの先輩二人だけが残っていた。
そして二人は、抱き合っていた。
「え……」
「は?」
いや、よく見ると腕を回しているのは先輩だけで、抱き合ってはいない。
こちらに背を向けている大崎くんの表情はわからないけれど、肩は小さく震えていて、もしかすると泣いているのかもしれない。
先輩は、大崎くんの背中をポンポン、と撫でる。
「俺が、あの時シュートを決めてれば、勝てたかもしれない」
「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれない。途中もっと決められそうな場面だってあった。負けたのは陽介のせいじゃない」
「でも、先輩たちにとっては最後の大会だったのに」
「私たちだって、今まで悔しい思いをした先輩たちを見送ってきた。もし、陽介が後輩たちに自分と同じ思いをさせたくないなら、来年は頑張ってよね」
大崎くんは鼻をすすり、小さく嗚咽を漏らす。
私たちには気づいていない。どうしようか、声かけないほうがいいかな、と思っていた時、顔をあげた先輩と目が合った。
先輩は私のことをじっと見る。その表情が、すごく敵意を向けられているような気がした。
すると先輩は両腕を大崎くんの腰に回し、今度は本当に抱き着いた。
「陽介なら大丈夫だよ」
「先輩……」
大崎くんも嫌がる様子はなく、受け入れている。
「は?! ちょっと」
「し、進藤くん、帰ろう」
私は二人の前に出て行こうとする進藤くんの腕を掴み、駅の方へと歩き出す。
「あの人さぁ、僕たちのこと気づいてたよね?! わざと抱き着いたよね?! 見せつけるようにしてさ」
「そう、だね」
「大崎も大崎だよ。試合に負けて悔しいのはわかるけど、あれはだめでしょ」
「でも、バスケのことはあの先輩のほうがよくわかってるだろうし、部活ってそういうものなのかも」
「そういうものじゃないでしょ!」
進藤くんはすごく怒っている。
もちろん私も彼女という立場からするとすごくいやだ。でも、私はあんなふうに大崎くんをなぐさめることはできない。
きっと、今までずっと見守ってきた先輩だからこそかけられる言葉があるし、そんな先輩だからこそ、大崎くんも心の内をさらけ出せるのだろう。
「僕、あの先輩気に入らない」
気に入らない、そうはっきり言える進藤くんは本当に大崎くんのことが好きなんだと思う。
私は、大崎くんに気持ちを吐き出せる相手がいてよかったと思ってしまった。
それが私だったらすごく嬉しいけど、そうじゃなくても仕方ないと思えた。
「ねえ進藤くん、私たちが見てたこと大崎くんに言ったらだめだよ」
「ええ、言いそう」
「だめだよ」
「わかったよぉ」
あの先輩のことはすごく気になるけど、もう今日で引退なんだろう。
三年生は受験で忙しくなるだろうし、もうこんなことはなくなるはずだ。
私たちはミーティングの前にすぐ帰ったことにして、何も見なかったことにしよう。
それで月曜日、大崎くんに会ったら笑顔でお疲れさまって言おう。もう一度、かっこよかったよって伝えよう。
「進藤くん、もしあの先輩が大崎くんの彼女でも私と同じことお願いしてた? したことを再現するってやつ」
「するわけないじゃん。佐倉さんだからだよ」
「私だから?」
「ちょろそうだったから」
「え! ひどい!」
「うそだよ。佐倉さんになら、僕の気持ちを言ってもいいかなって思ったからだよ」
それって、私のことを信頼してくれているということだろうか。
いや、BLが好きだってことがばれたからかも。
「そういえば、そろそろ私のノート返してよ。もういいでしょ」
「もう忘れたのかと思ってた」
「忘れてないよ! 続き書きたくてうずうずしてるよ!」
「まだ読んでる途中なんだよね」
まさか、全部読もうとしてる?!
すでにけっこう読んでたのはわかってるんだけど、今さら読まないでって騒ぎ立てたりもしないけど……。
「読んでて面白い?」
「面白いよ。佐倉さんの癖がよくわかって」
「っ!」
やっぱり読まないでほしいかも。
「佐倉さんはもっと男の本心を知るべきだね」
「じゃあ教えてよ」
「やだよ」
進藤くんはクスリと笑う。私のことをバカにしているわけではなく、ただ楽しそうに笑う。
私も、楽しかった。進藤くんになら、こんな自分をさらけ出せる。
そんな心地良さを感じながら、二人で電車に乗って帰っていった。