夕暮れのオレンジ
だってまさか同性の親友に、夕暮れの教室なんて恋愛イベントでありがちなシチュエーションで告白されるとは思わなかった。
これが異性の憧れの先輩とかだったらテンションは大爆走Ktkr! 私の時代ktkr!! とかなるんだろうけど。
流石に親友に告白されてKtkr! とか言えないわ。
私は椅子の真横に座っていた体制を直して正面を向く。前の席に座って椅子を後ろ向きにして最初っからきっちり体ごとこちらを向いていた親友と、正面から向かい合う。
真面目な親友は、椅子に横座りなんてしたことない。相手に正面から向き合って話すのはいつものことで、別に特別なことではなかった。
いつも通りのありきたりの生活の中降って沸いた例外は、いつも通りの中から助走もなく私の目の前にスライディング。
真面目な親友が真面目に話しているのだから、真面目に対応しなければと思う私はきっと彼女に大分影響されている。
これが他の友達だったら冗談に無理やりして、荷物をまとめて帰宅して、明日からいつも通り何事もなかったかのように接する。若気の至りってあるよねと、もしかしたら距離を置くかもしれない。
でもこの親友にそれはしちゃいけない。
そう思える程度には私にとっても大切で、好意を抱いている相手だ。
相手の向ける好意の違いに今まさに気づいたんですけどね。
私が体勢を変えたことで真面目に聞くと察したのか、目があってすぐ親友は言葉を続ける。
「私、来週転校するんだ」
「…えーと、だからその前に秘めたる想いを伝えちゃえって?」
「そう」
親友は真面目だが言葉が足りない。
そしてどうやら、好意に同じ好意を返してほしいとか、御付き合いを考えてほしいとか、そうことでもないらしい。
「私の家と、真由美の家ってこの学校を挟んで反対方向じゃない?」
「うん、だから一緒に帰るとか門の前までだよね」
「休日に一緒に遊ぶときも、学校を待ち合わせにした方がお互い近かったよね」
「学校が駅より近いからね」
「だからなんとなく、私と真由美を繋いでおくものって、この学校のような気がしたの」
間違ってもいない気がする。
私たち学生は、学校で出会って、学校で別れを告げる。
その先付き合いが続くかどうかは本人たち次第で、その大半は学校に限られた付き合いになるんだろう。中学のころの友達だって、あの頃毎日遊んだのがウソのように疎遠だ。
「連絡先だって知ってるし、連絡を取ろうと思えばできるし、会おうと思えば会えるんだろうけど」
呟いた後、親友は窓を見る。
なんとなく、その視線の先を追う。
見慣れた窓枠とグラウンドの光景。特別に思えるものはそこにない。
特別に思えるのは外を見ている、親友の寂しげな眼差しだけだった。
「学校で会えないってだけで、薄れていくものはきっとあるから」
だから、今一番鮮烈な想いだけでも伝えておきたかった。
そういって笑う親友は、やっぱり寂しげで、泣きそうだった。