夕暮れのオレンジ
昨日の出来事を語っていたら、友人が蒼白になりながら叫んだ。
「その子の切り返しもだけどお前の脳みそもどうなってるの!? なんでそのセリフでそうなったの!?」
「…」
「頬を染めて顔をそむけるなキモイわ!!」
失礼な友人だ。しかし彼の言い分だってちゃんとわかっている。
なんて断り文句だと絶句した。真由美って誰だ。それ女の名前じゃないか。お前も女じゃないか。つまり百合なのか。今話題の多様性って奴か。なんて堂々と宣言してるんだ。これ小学生のトラウマにならないか。いろいろ一瞬で突込みが頭を巡ったのは確かだ。
だがしかし、だがしかし。
そう言って夕暮れに染まる公園で、恍惚と微笑みながら告げる彼女は酷く魅力的だったのだ。
そう告げると、友人は両手の拳を部室のロッカーに叩き付けて額もロッカーに叩き付けた。
「笑顔に惚れたってだけなら…! それなら冷やかすのに…! その前のセリフがつくとどうしても手放しに応援できない…!!」
それで相談に乗って欲しいんだが。
「お前なんなの!? 昨日いろいろありすぎて破裂しちゃったの!? 頭ぱーんなの!? 話進めるの!?」
オレは彼女の名前も知らないんだ。
「話進めるのかよ!! 相談するなら俺の話も聞けよ!!」
同じ学校なのは制服を見てわかってるけど、学年もリボンの色で分かったけど、オレは彼女を見かけたことがない。
「…なあ、その子やめとけよ。小学生の告白断るために言うセリフじゃないぞあれ。その恍惚とした笑顔って聞くだけマジだぞ。マジで百合だぞ。男が挟まるな解釈違いだ」
どうやら同じ三年生らしいが、少子化が進んでクラスが四つしかないこの学校で、三年間顔を見たことがないなんてよほどのことがない限りあり得ない。心当たりがない。お前は何か知らないか?
「…お前、しばらく走り込み増やすからな。お前だけ体育館ずっと走ってろよ」
「…」
「なんでって不満げな顔すんな俺の話を聞かないお前が悪い…で、顔見たことない三年の女子?だったらあれだろ、先週転校してきた二組の子。俺たち四組だし、選択授業がかぶってないなら確実にその子だろ」
しぶしぶといった様子で教えてくれたのは、二組に先週転入してきたという女子の話だった。
どうやら俺の選択授業とは見事重ならず、先週の転入ならば集会などでも顔を合わせない。友人をじっと見てその子の名前を問えば、本当にしぶしぶと教えてくれた。ちなみに何故この友人が情報通なのかといえば、よくしゃべりよく笑い対人関係を良好に築くことが上手い友人は顔が広く、自然と学校での情報を豊富に持っているのだ。
「松崎加奈子。転入生は確かそんな名前だった…けど、ちゃんと確認しろよ?その子がお前の一目ぼれした百合っ子なのかどうか」
「…松崎、さん」
ぽつりと小さく呟けば、友人は本当に仕方がない、といった風に苦々しげに笑った。
「あの子?」
そういって指差された部室の窓の外。
そこには昨日夕暮れに染まっていた背中が。
全力で部室の床にスライディングした。
「なんで!?」
黙って友人。