夕暮れのオレンジ
だって今振り返りそうだった。目が合うかなどわからないが目を合わせられる気などしなかった。目があったらどうしたらいいの。笑えばいいの? それって軽く見えないか。真顔なのか。気まずくないか。目をそらせばいいのか。それって感じ悪くないか。
ぐるぐると考えているオレを心底呆れたように見下ろす友人は、オレの代わりとばかりに窓の外を見た。あ、それもそれでいやだ見るな友人。
「お前なんなの」
もういないよという友人の言葉を信じて起き上がれば、本当にいなかった。安堵したような残念なような、いやきっと残念なんだけど、直視する勇気などない。
「あの転入生、よく写真撮ってるんだよ。あー、携帯で。それで前の学校の友達にラインするんだってさ。なんで知ってるかって? みっちゃん情報だよ二組の子。あの子も人懐こいからなー」
前の学校の友達…。もしかしてと思ったら、友人もそう思ったらしい。ちょっと顔が引きつった。
「…なあおい、お前そんな草食系で大丈夫なわけ? 相手が百合っ子だとしたらただでさえ相手にされないのに」
煩いな友人。今のはちょっと不測の事態にびっくりしただけだ。
それに彼女が女性をそういった意味で好きだとしても、女性全体をそういう目で見ているんじゃなくて、その子だけが特別な可能性だってある。さらに世の中には両方大丈夫な人だっている。彼女がそうじゃないとは限らないし、男に恐怖を抱いているわけでないなら何とかなるはずだ。
同じ学校で、これから生活していくのだ。何とか接点を作れば、なんとか、そうなんとかなる、はず。
オレの訴えに、友人はふかーいため息を一つ。
「…一緒の学校だからって油断して、他校の奴に負けないようにな」
実際、今は他校に恋敵がいる様子だし? オレの訴えに相手の性別はとりあえず聞かなかったことにしたらしい友人は、そう言ってオレの肩を叩いた。
「よしじゃあ、まずは知り合いになることから始めようか」
全力で部室から逃げた。
「だからなんで!?」
無理無理無理無理今のオレは彼女の名前を知れただけでお腹いっぱいです!! 目を見てお話しする自信は全くありません逃げたい!
部活で培った俊足を活かして教室を目指す。夕暮れとは程遠い青空が、逃げる俺をあざ笑うようにそこに在る。
とにかく名前がわかったんだ、それだけでも第一歩だ。同じ学校にいるんだ、少なくとも一年は同じ学校にいる。だからその間に…その間に!
「会話できる、くらいには…!」
「目標が低すぎる!!」
追ってきていた友人の突込みを背中に、オレは教室へと滑り込んだ。
昼休みは残り五分。
おまけ
「結局いい断り文句が浮かばなかったから、真由美になって出直してって伝えたわ」
『無茶振りされた小学生を思うと涙が止まらないよ親友!』