夕暮れのオレンジ

 ある意味頑なにあの感情を抱きしめていた私に、彼女はそれでいいのだと言った。

 親友がそう思う感情が、親友の本物だと。

 告白されて困ったのはあの子の方なのに。
 あの子は私を、否定しなかった。

 惚れ直しても仕方がないことよね?
 異論は聞かないわ。その想いを今、友情として昇華しているのだとしても。

 ふと思い出して、食事の準備より先にパソコンを起動させた。そのまま探すのは画像フォルダ。綺麗に整頓された、彼女と私の青春の日々。
 携帯で撮った写真はパソコンに移されて。あの子が海外で撮った写真も全部保管してある。そのマメさに、あの人は苦い顔をするけれど、それはもう仕方のないことなのだと諦めてもらっている。幼い息子も綺麗な風景には心惹かれているのだし、これでこの子が写真家に興味を持っても面白いわ。
見つけたフォルダの中、一番古い写真を開く。

 赤。

 整頓された机。

 赤。

 誰もいない空間。

 赤。

 燃え盛る夕暮れ。


 赤が鮮やかな、オレンジの教室。


 何より色濃い、思い出の夕暮れ。


 私の告白は、恋情と同時に不安も吐露していた。このまま会えなくなるのは嫌だという我が儘も含まれていた。
 あの子はそれを酌んで、忘れないと、形に残そうと写真を撮り始めた。そしてそれが彼女の将来を決めた。
 誰かのきっかけになるというのは、嬉しいような、怖いような。とにかくくすぐったい。

 告白しないままでも、友情は続いただろう。でもその場合、彼女は違う道を歩いていた。違うものを目指していた。もしかしたら私はくすぶった想いを抱えたまま、男性と恋愛なんてできなくなったかもしれない。
 こうして結婚して子供を産んで、親友と今も確かな友情を築けているのは、あの日夕暮れに染まる教室で、震える手を隠しながら告白した結果だと思える。

 今この日があるのは、あの学校生活があったからだ。
 親友が真由美だったから。
 クラス替えで同じクラスになれたから。
 同じ学校に入学したから。
 あの学校に入学したから。

 遡れば、大げさともいえる感慨深さが胸に沁みるけれど。
 私は、あの学校で生活できてよかったと思える。
 親友と出会えた学校生活を、誇ることができる。
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