プレゼントはいらない
僕は人間が嫌いだった。
もちろん、最初から嫌いだったわけじゃない。時を経るにつれて少しづつそうなっていっただけだ。
小さい時は少し緊張したけど僕に笑顔を向けてくれる人も遊んでくれる人もいた。
だから少し勘違いしてしまったのかもしれない。周りの皆みたいに幸せになれることを。
ある時、女の人が来て僕を可愛いと言って一緒に住むことになった。
周りには僕よりかっこいい子が沢山いたのに僕を選んでくれたのがうれしくて僕はすぐその人の事が好きになったんだ。
その人の名前はカレンって言って、凄くかわいいんだ。
僕の事を好きと言ってくれてハグもキスもしたし、一緒に寝たりもした。
仕事に遅れちゃうから僕が起こすと「まだ、寝たいー」と言ってよく顔をこすっていた。
そのたびに僕はカレンの事を大好きになったんだ。
だから僕は全然気にしないようにしたんだ。
前よりハグやキスの回数が減って、ご飯を買うのも忘れちゃって、だんだん僕の方を見なくなっていくのを。
きっと疲れてるんだろうなって思って、気配を消せるように頑張った。
僕も疲れてるカレンに頼りきりは良くないと思ったから仕事をしてなんとかその日のごはんにありつくようになった。
別にごはんくらい作ってくれなくってもカレンと居られれば幸せだと思った。
そんな風になってしばらくして、珍しくカレンが僕の方を見て名前を呼んでくれたんだ。
僕はすぐにカレンにハグをして精一杯愛の言葉を伝えた。「好きだよ、大好きだよ」って。
カレンはフッと微笑んで僕を外に連れ出した。
外に出てしばらく歩いて全然知らない一つの公園に着いてカレンは言った。
「ごめんね、バイバイ。いままでありがと」って。僕は最初、訳が分からなくて、何も考えられなかった。
そんな僕を見て彼女は続けた。
「新しい彼氏ができて、その人と付き合うことになったの。君、一人じゃ何もできないし、私の仕事増やすだけで全然可愛くないけど一応、その人に君もいていい?ってきいたら案の定、ダメって言ってくれて。彼氏が君の事嫌いって知ってたから全然嬉しかったんだけどさ。だからバイバイ」
そう言い放つと何事もなかったかのように僕を置いて公園を出て行った。
僕は急いで彼女を追って走ったけど、すぐに分からなくなった。
ああ、僕は捨てられちゃったんだって思いたくなくて、ずっと彼女をその公園で待ち続けた。
きっと帰ってくるって自分に言い聞かせて。
カレンが僕の前からいなくなってしばらくして、僕は分厚い服を着た数人の大人に強引に一つのビルに入れさせられた。
そこには昔の仲間たちほどではないけど、今の僕とは比べ物にならないくらい綺麗な恰好をしたやつらがいて、ああコイツは恵まれてんなってすぐ思った。
大人たちは僕にご飯をくれた。カレンのくれたごはん以外食べたくなくて最初は口をつけなかった。
けど、僕は食べないと死んじゃうかもって思ってからは死なない程度に少しだけ食って後は残すようにした。
そんな日々が過ぎたころ、一人の女が来た。地味な恰好でカレンとは似ても似つかなかった。
どうせ、俺なんか選ばれない。そう思った時、女は言ったんだ。
「ねえ、一緒に住もうよ」って確かに。
俺は耳を疑った。大人たちも目を丸くして驚いていた。そりゃそうだ、こんなひねくれもの好きになる奴いない。
でも、俺はそいつと住むことになった。だってそいつは色んな面倒くさい過程もなんなくこなしてしまったから。
「これからよろしく、心(こころ)。」そう言って家に着くとベッドに行ってすぐ寝てしまった。
俺の分のベッドも用意してくれていて少しほっこりした。
女の名前はユイ。
一緒に住むようになってからは毎日、ごはんも作ってくれたし、部屋も綺麗にしてくれたし、僕は仕事に行かなくてもいいようになった。
可愛いねっていう言葉も好きだよって言葉もお腹いっぱいになるまでくれた。でも、ハグもキスもしようとはしなかった。
「君のペースでいいよ」って言ってくれたんだ。
だから僕はゆっくりユイと仲良くなって、でもやっぱりちょっと怖いからユイが寝てるとき、やっとほっぺにキスができた。
僕はユイが大好きになれた。この世で一番の大好きに。
カレンの事は忘れられないし、今も多分好きの気持ちは残ってる。
だからこそ、また一人になるのが怖い。ユイの温度を知って暖かくなるたびにほっとしてほわっとしてそして俯く。
内緒にしてたけど今日は僕の誕生日なんだ。
誕生日にはプレゼントってのがあるんだってね。
ねえ神様、僕の一生分のプレゼントと交換で願い事があるんだ。今まで、わがままは言わなかったでしょ、僕。
僕、ずっとユイと一緒にいたい。ユイがどんな姿になっても僕はユイの傍にいたい。もう捨てられたくない。
どうか、このお願いが空の奥まで届きますように。
寝ているユイを見て僕は小さく呟いた。
「愛してるよ、ユイ」

、、にゃあ。
「ん、猫、、?、、!」29歳の弁護士、初宮唯は寝ぐせの着いた髪をたらしながら口をおさえてふふっと笑った。
「、、、ずっと一緒にいようね、ココロ」
ココロと呼ばれたその黒猫は唯のベッドで初めて寝ているにも関わらず、すうすうと寝息を立てていた。
安心したかのように、まるで願いが叶ったように。
< 1 / 1 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

八限目は朝葉学園図書館で
もあま/著

総文字数/22,657

ファンタジー8ページ

ずっと大好きだよ
もあま/著

総文字数/1,024

恋愛(その他)1ページ

サファイア革命
もあま/著

総文字数/7,951

その他6ページ

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop