復讐は溺愛の始まり 〜一途な御曹司は愛しい彼女を逃がさない〜
 穂香とは雅義がまだ東儀ホールディングスの事業の一つである製薬会社で働いていた時に知り合った。彼女は当時病気で入院している母親の代わりに、まだ幼い弟の世話をしながらひとりで頑張って働いていた。

 弟思いのとても優しい子で、一人で家族を支えるなんて大変だっただろうに、そんなことを微塵も感じさせないほどの明るい、太陽のような輝く笑顔の似合うとても綺麗な女性だった。

 そんな彼女に雅義は恋をした。そして必ず幸せにすると約束して結婚した。雅義の人生の中で最も幸せな時だ。崇人も生まれ、この幸せがずっと続くんだとそう信じていた。でも……その約束を守ることはできなかった。

 「君は奥方とは結婚してそろそろ40年だったな。幸せだったか?」

 「はい。まあ、大きな喧嘩もして夫婦の危機も何度かありましたが、今でもこうして妻は結婚してくれてます。本当にありがたいことです」

 「夫婦の危機か……」

 最近の日本の離婚率は35%なんて言われている。ということは3組に一人が離婚しているという計算だ。ハッピーエンドだと思った夫婦の結末は、それだけ多くの人にとってハッピーエンドで終わらなかったということだ。

 「俺は今度こそ穂香を守れると思うか?」

 「結婚なんてただの紙切れ一枚でできます。でも仮面夫婦なんて言葉があるように、中身がなければなんの意味もありません。でも逆に言えばそんなただの紙切れがなくても、お二人の絆が強ければ、それで十分なのではないでしょうか。最近は事実婚など流行っている世の中ですし。夫婦の形なんてそれぞれです」

 雅義と穂香をこの30年余りずっと見てきた片瀬は、ふっと優しい眼差しになる。
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