復讐は溺愛の始まり　〜一途な御曹司は愛しい彼女を逃がさない〜
　「穂香はまた俺を愛してくれるだろうか」

　雅義は目を伏せるとぎゅっと手を握りしめた。人間どうしても失えないほど大切なものがあると心が臆病になってしまうらしい。穂香は雅義にとって今でもこの世で一番大切な宝物で、そして輝く太陽のような存在だ。どんな形になっても絶対に失いたくない。

　「奥様はあんな煌びやかな世界でこの数十年ずっと働いていらっしゃるのに、どの方とも浮いた話の一つもありません。奥様もずっと東儀社長と同じ気持ちでいらっしゃるのではないでしょうか。でなければ社長にこんなに頻繁にはお会いになりません」

　「それは、汐梨のことがあるから……」
　「それだけではないと思いますよ」
　
　長年自分の片腕として働いてきた部下は、柔らかい眼差しで言葉を返した。彼はただの部下じゃない。雅義にとって、もっとも信頼できる友人でもある。

　「君がいなくなると寂しくなるな。仕事を辞めても時々一緒にゴルフに行ってくれよ」

　「もちろんです。社長とゴルフで張り合えるのは私だけですからね」

　彼のそんな言葉に雅義は声をあげて笑った。自分の人生なんてあとどれほど残っているのかわからない。できればそんな残りの人生を愛する人と一緒に、愛する人たちに囲まれてゆっくりと過ごしたい。

　「片瀬、航空券の手配をしてくれ。今年はカナダで合流することにするらしい。崇人の婚約者も一緒だそうだ」

　「カナダですか。いいですね。以前何度か奥様と旅行に行かれた場所ですね」

　「ああ。穂香に……沢渡橙子にもう一度プロポーズするにはいい場所だと思う」

　「かしこまりました。では奥様と汐梨様の航空券といつものホテルを至急手配いたします」

　片瀬は嬉しそうに微笑むと、一礼をして社長室のドアを閉めた。

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