復讐は溺愛の始まり 〜一途な御曹司は愛しい彼女を逃がさない〜

　「せっかくだから今日はお父さんと二人だけで過ごしたら？私はこれから恋人と一緒にデートなの。それじゃ明日、ウィスラーでね！」

　「えっ……こ、恋人！？汐梨！？ちょっとそんな話聞いてないわよ！！」

　手をひらひらと振りながらドアを閉める汐梨を慌てて追おうとした時、突然背後に人の気配がして穂香は後ろを振り返った。

　「雅義さん……」

　結婚した当時と違い、今は目尻にはシワが刻まれ黒い髪も白髪がちらほらと混じっている。でもこれほど綺麗に年をとる男性なんてそうそういない。彼は今でも気品のある綺麗な顔立ちをしていて、少なくとも10歳は若く見える。

　雅義は静かに歩を進めると穂香の前に立ち止まった。

　「あの……実はあなたに話すことがあるの。来週出てくる週刊誌の記事なんだけど──…」

　穂香はそう言いながら急いでバッグの中に手を突っ込んだ。このスキャンダルの責任を取るためと、これ以上彼に迷惑をかけない為にも最後の別れをしようと、既に小切手も用意してきてある。

　「わかってる。それなら既に対処済みだ。君が心配することは何もない。それに……そんな金なんていらない」

　雅義は穂香が手にしている小切手をチラリと見るなり、そう言い放った。

　「あの金は……もちろん汐梨の為でもあるが、本当は君との繋がりが欲しくて払った金だ。養育費を払うから汐梨と週に何回か過ごしたいと……崇人に汐梨と一緒に過ごす時間をくれと、そう言えば君が断れないことを知って、そんな卑怯な手を使ってまで君に会おうとした金だ。だから君が返す必要はなにもない」

　「で、でも、あの記事が出てしまったら──…」

　「俺ももう年だ。あと何年生きられるのかわからない。そろそろ社長職を退いて、愛する人と余生をゆっくり過ごしたいと考えている」

　そう言って雅義は穂香の手をとった。