復讐は溺愛の始まり 〜一途な御曹司は愛しい彼女を逃がさない〜
 「東儀家はいつも金や権力の争いばかりで、俺にとっては息の詰まるような場所だった。両親はお互いにも子供にも関心がなく、実の妹は俺が東儀の跡取りであることを昔から忌み嫌っている。今だって妹夫婦は全ての財産をなんとか自分達のものにしようと、俺や崇人を追い出す画策をしている」

 雅義は一旦言葉を切ると、少し悲しそうに目を伏せた。

 「そんな暗い場所にいた俺にとって、君はまるで太陽のような存在だった。君の存在に俺は救われたんだ。でも……君に離婚したいと言われた時に気づいたんだ。君をこんな東儀のような家に閉じ込めておくべきじゃないと。君を自由に羽ばたかせるべきだと。実際、俺は正しかった。君はこの25年間ずっと輝いていた」

 雅義は伏せていた眼差しを持ち上げ、まっすぐに彼女を射貫いた。

 「君はこの25年間、1人で本当によく頑張った。とても誇りに思ってる。でも、どうかな。残りの人生を、もう一度俺と共に寄り添って歩んではくれないだろうか?」

 彼の握る手は、極度の緊張で震えている。そんな彼の手を穂香も力強く握りしめた。

 「私なんかでいいんでしょうか?」

 彼には穂香よりも身分的にも経済的にも何もかももっと釣り合う女性がいただろう。でも穂香を選んでしまったばかりに、しなくてもいい苦労をさせてしまったのではないかと、心が今でも痛い。

 「今も昔も俺には君しかいない」

 そうはっきりと断言する雅義の瞳は、あの公園で一緒に楽しくお弁当を食べた時と同じように、愛情で満ち溢れている。

 「私にも……雅義さんしかいません」

 目の前が涙で霞んでくる。2人の間にはあれだけ辛いことがあったのに、それでも彼が今でも変わらず自分を愛してくれていることに胸が切なくなる。

 俯いて涙を拭っていると、雅義は手を伸ばして、穂香が胸にぶら下げているネックレスを引っ張り出した。婚約指輪と結婚指輪がチャリンと音を立てる。

 「ずっと離さず持っていてくれたんだな」
 「どうしても、捨てることができなくて」
 「そうか……。じゃあ、もう一度指輪をはめるところからやり直させてくれ」

 そう言って雅義は穂香の指に婚約指輪と結婚指輪をはめると、そこにキスを落とした。
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