愛なんて空想だった
プロローグ
「今日から産休に入った清水先生の代わりに担任を努めさせていただきます。黒木です。」

そう言って教壇にたった男の髪は中途半端に長ったるしくてなぜか私を無性にイライラさせた。

「はーい!せんせー彼女いるんですかー!」

恋に飢えた女子生徒が馬鹿げた質問を飛ばす。

「ひみつでーす」

男はそれを下手くそにかわした。
いろいろな質問が飛び交う中遮るように1時間目始まりのチャイムがなった。

「じゃあ今日はこのまま歴史の授業始めましょうか」

そう言って教科書を広げチョークを持つ手は細く、長くゴツゴツしていた。

昼休みが始まるとみんな一目散に教卓に行き、男を囲む。男は困った表情を浮かべているけれど私には満更でもないように見えた。

「くだらない」

そう呟いてトイレに逃げ込む私はみんなにどう映っているのだろう。厨二病?憧れちゃった系?なんでもいい。くだらない。全部全部。

「愛川さん!」

私の名前を呼ぶ声がした。初対面なのになぜ名前を知っているかなんて興味もないけど。

「なんですか?」

少し攻撃的に行き過ぎたかななんて考えるけど、どうせ元の担任が戻ってくるまでの臨時の教師だ。

「少し、話をしませんか」

人気のないベランダに連れていかれた。

「貴方のこと、清水先生からいろいろ聞きました」
「はぁ。」

いろいろ、いろいろとはなんだろう。リストカットのこと?オーバードースのこと?それとも家出騒動の時のことだろうか。心当たりがありすぎて分からない。

「貴方は少々危なかっかしいから、よく見てて欲しいと。」
「生徒思いのよい先生ですね。清水先生は」
「そうですか。」

私は、嫌いだ。あの教師はお節介すぎる

「清水先生が戻ってくるまでの間、私が清水先生の代わりになります。なんでも相談してください。」

なんて言うけど、どうせこの男も同じだ。
何を言っても綺麗事しかかえってこない。
教師なんて、みんなそんなものだ。

今さら誰かに期待なんか、していない。

「そういうことなので、数ヶ月の間、よろしくお願いします。」

軽く会釈をされたが、私はただ突っ立っていた。

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