マンションの下には秘密がある
早速ですが皆さんは噂話は好きですか?

こっくりさんや、トイレの花子さん。たくさんの噂話を聞いたことがあるのではないでしょうか?

今回はマンションにまつわる噂話をひとつ。



これは、私が幼い頃のお話です。

私も含め友達5人でかくれんぼをしていました。

「鬼は私がやるよ!」

「わかった!華(はな)ちゃんが鬼ね!」

「じゃあ、100数えるよー!」

「「「「はーい!」」」」

みんなはバラバラな所へを走り出していきます。

団地でかくれんぼをしていたためマンションの下の空洞やちょっとしたくぼみなど、幼いながらに隠れられるところを必死に探して隠れました。

もちろん敷地内に公園もあったので、公園の草むらとかにも隠れました。

幼い頃って虫とかあんまり気にならないんですよね。

「もーいいかい!」

「……」

私のところでは返事が無ければもういいって意味になるのでした。

初めは王道の公園の草むら。

思った通り、元気いっぱいな悠(ゆう)ちゃんは草むらの中にいました。

「悠ちゃん見つけた!」

「やっぱり見つかるかー。1番目?」

「1番目!」

1番目だとわかると少しガッカリした表情を見せた。

かくれんぼで最後まで残れた子は、それはそれはヒーローになったかのように褒められたものでした。

「華ちゃん、2人目見つけに行こ。」

「うんっ!」



「あー!みつけた!」

運動神経の良い薫(かおる)くんは足と手でつっぱるように滑り台の中で止まっていました。

「すごいねー、腕痛くないの?」

「うん!俺、そーいうの得意だから。」

「薫くんで2人目だよ!」

「1番目じゃないならいいや。」

私たちはくだらない話をしながらケラケラと笑っていました。



「よし!3人目いこう!」

気合いを入れ直して3人目を探しに行こうとした時です。

瑠々(るる)ちゃんが私たちの元へ走ってきたのです。

「あ!瑠々ちゃん見つけたー!!」

悠ちゃんの明るい声が響きました。

しかし、瑠々ちゃんの様子は少しおかしかったのです。

目は泣きじゃくったのか腫れていました。

そしてスカートには砂がついていたのです。

「瑠々ちゃんどうしたの?」

心配した私達はすぐに瑠々ちゃんにかけより話を聞きました。

すると瑠々ちゃんは一言だけこういったのです。

「いなくなっちゃったの。」

「「「え?」」」

かくれんぼなんだからいなくなっても何も不思議では無いのです。

でも、瑠々ちゃんの一言は何か違う意味があるように感じられました。

「どういうこと?いなくなるほど上手に隠れたんじゃない?」

瑠々ちゃんは首が折れるんじゃないかと言うほど横に振りました。

そして、説明してくれたのです。

「響(ひびき)くんがね、隠れてたところに行ったの。でもね、いなかったの。そこにいなかったの。」

私たちは隠れていた場所から移動しただけだと思いました。

でも、瑠々ちゃんは移動したということは絶対に無いと言うのです。

なぜなら瑠々ちゃんが隠れていた位置から、響くんの隠れているところは見えるからです。

そして、響くんが入っていく後ろ姿を瑠々ちゃんは見ていたのです。

出入口は瑠々ちゃんから見えるところのみで、他のところからは移動することが出来ないのです。

不思議に思った私たちは響くんが隠れているところに行きました。

「ここであってる?」

「うん、あってる。ここに響くん入っていった。」

響くんが隠れているところはマンションの下にある空間でした。

そこは昔からタヌキがいるやら、キツネがいるやら、死骸があるやらと色々な噂がありました。

だから、勇気のある人か噂の知らない人のどちらかしか入らないのです。

響くんは生まれた時からここに住んでいるので、噂を知らないはずは無いんです。

でも、勇気があるかと言われたらそうでも無いんです。

私たちの中では1番の泣き虫と言っても過言ではありませんでした。

お菓子を取られたとか、ぬいぐるみが水たまりに落ちたとか。

そんなことですぐ泣くような子です。

「ここって、『神隠しの空間』って言われてるよね。」

ボソッと薫くんが呟きました。

そして、その声は震えていました。

立っていても仕方がないと思った私は提案したのです。

「みんなで叫んでみる?」

「そうしよう。じゃあ、せーのでいくよ。」

「せーの。」

「「「「響くんー!!!!」」」」

私たちの声は反響して少しの間響いたあと……



「なぁーにー?」



そう、確かにそう聞こえました。

ほっとしました。響くんは奥に行きすぎて、瑠々ちゃんはたどり着かなかっただけだったと私たちは思いました。

「響くん!かくれんぼ終わりだから出てきてー!」

てっきり出てくると思ったのですが、響くんの返事は呼ぶ声でした。

「面白いものがあったからみんなも来てー!」

幼い頃に面白いものと言われたらそれはもう、行くしかないです。

好奇心には勝てないものです。

でも、この好奇心につられて奥に行ったのが間違いでした。

そうです、響くんがいたことにほっとしてここが『神隠しの空間』であることを忘れていたのです。

みんなでしゃがみながら奥に行くとそこは、真っ暗な空間に下水の匂いが漂っているなんとも言えない空間でした。

「響くん?」

「もっと奥だよ〜」

「もっと?」

中は直線ではなく、90度曲がると道が続いているようでした。

曲がってしまえばもう、外の光は届きません。

真っ暗な空間に4人の息遣いだけが聞こえます。

「みんなここ見てよ!」

声が近くで聞こえました。

「ここってどこ?」

誰の声だったのでしょう。分からないけれど誰かが尋ねました。

「壁だよ壁!」

「暗くて見えないよ?どこ?」

もう一度尋ねます。

そして、帰ってきた声は諦めの声でした。

「見えないなら仕方ないかな。」

「もう出ようよ。ほら、響もいくよ。」

薫くんが出るようにみんなを促しました。

それに伴いみんなは出ていきます。

そろそろ怖さも腰も足も痛くなってきてたのでみんな、早足です。

しかし、私は何かにつられて外に出る前に後ろを振り返りました。

そこには、さっきいたような空間ではありませんでした。

さっきは何も見えない真っ暗な空間でしたが、私が見た時は小さな男の子が楽しそうに遊んでいたのです。

周りにはたくさんのおもちゃが落ちていました。

石のチョークで書かれたのか、絵が壁に書いてありました。

怖くなった私は逃げるように出ました。

出た先には砂が着いて汚れた3人と、綺麗な服のままの響くんがいました。

「みんな?なんでそんなところにいたの?僕みんなが入っていくの見て走ってきたんだけど、怖くて入れなかったんだ。」

入っていくのをみた?

走ってきた?

私たちは何が何だか分かりませんでした。

「今日はもう帰る?」

いつもは元気な悠ちゃんも今は泣き出しそうな顔をしていいました。

その言葉を合図に私たちは解散しました。

その後から私たちが『神隠しの空間』に行くことは無くなりました。

そして、かくれんぼをすることも無くなりました。




瑠々ちゃんが見た響くんは誰だったのでしょう?

私たちがつられた声は誰だったのでしょう?

そして、私が最後に見た人は幻なのでしょうか?

皆さんのマンションの下にも空間はありますか?

もしかしたらそこには誰かがいるのかも知れません。

マンションの下では今日も遊んで欲しい子があなたを呼んでいるとかいないとか。
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