最強男子はあの子に甘い
 自分よりも体の大きな男の子たちが勢いよく倒れてきて、避けきれそうにないことを瞬間的に覚悟した。
 そんな私の肩に突然大きな手がかかり、倒れてくる生徒の流れから引き離される。
 庇われるように抱きしめられていることに気づいたときには、倒れてきた生徒たちの流れは止まっていて、群がりの後ろにいたことが幸いしたようだ。
 ほっと胸を撫でおろす間もなく、私を抱きしめて守ってくれた人の腕の中でドキドキと心臓がうるさい。

「……大丈夫?」

 私は、彗くんの腕の中にいた。
 優しい声色は昔とあまり変わらないように聞こえる。
 小学校四年生ぶりに間近で見る彗くんは、もうすっかり大人みたいだ。
 小学生の頃も子供っぽくなかったけど、整った顔立ちがさらに美しくなっていて思わず見惚れる。
 緊張で声が出なくて、彗くんの問いかけに『大丈夫』と言う代わりに何度も小刻みに頷くと、そんな私の頭をぽんと撫でて彼はゆったりと乱闘現場に足を踏み入れて行った。
 倒れていた生徒たちの間に道が出来、彗くんが歩くとその道は自然と広がっていく光景はなんとも言えない。
 ケンカしているわけでもないのに、その強さを象徴するかのようだ。
 
「彗さんとお知り合いですか?」

 にこやかに声をかけてきたのはいつの間にか私の隣に立っていた乙部さんだった。
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