最強男子はあの子に甘い
「えっ……!?……いや、な、何も……?」

 不意に問われて思い当たることがある私は、彗くんの質問の鋭さにぎくりとする。
 首を横に振って否定こそすれど、彗くんの目を見ることが出来ない。

「隠し事ヘタすぎてかわいいな?……で、何隠してんの?」

 右に、左にと逃げようとしても、後ずさりをしても、彗くんは隠し事を暴こうとじりじり私に迫って来る。
 逃げるにも逃げ場をなくしていく私は屋上の入り口に壁ドンされた。
 
「……だ、誰にも言わない約束をしていて」
「秘密の共有なんてずいぶん仲いいじゃん?俺にも言えないようなこと?」
「……い、言えないです」

 泣きそうになりながらそう答えると、彗くんは次の瞬間ふっと笑って私の頭を撫でた。

「えらいね、紗宇。ちゃんと約束守って」
「え……?」
「乙部は紗宇が俺に隠し事出来ないだろうと思ってたみたいで、紗宇に打ち明けた悩み事は自分から俺にも打ち明けに来たから」
「え〜!乙部さぁ〜ん!」

 私は悲しいのか、嬉しいのか。
 複雑な気持ちで乙部さんの名前を口にする。
 意地悪してきた彗くんにはふくれっ面を向けると「ごめん」と一言。
 
「……かわいくてつい」
「かわいいって言えばいいと思ってる……」
「そんなことない」

 小さな私たちのケンカは、風が吹けば忘れてしまうくらいいつだってささやかだ。
< 102 / 104 >

この作品をシェア

pagetop