最強男子はあの子に甘い
紗宇(さう)、忘れ物ない?入学式、本当に一人でいいの?」
「うん、大丈夫!……多分!」

 心配するお母さんの見送りに笑顔でそう答えて「行ってきまーす!」と私は元気に家を出た。
 
 この春、高校生になった私は進学先に桜辰高校(おうしんこうこう)を選んだ。
 中学の先生や同級生は私の選択にドン引きするほどのヤンキー高校である。
 
 進学理由を挙げるならば、家から近いことだと即答するだろう。
 学力よりもケンカの強さが入試問題なのではないかと噂されるほど、ケンカに自信のある猛者が集まる高校として知られている。
 勉強があまり得意ではないこともあるけど、それ以上に朝起きることが得意ではない私にとって、通学距離は進学先の一番の決め手になった。
 決してケンカは強くない。
 そんな私でも入学が決まったから合格基準は腕っぷしの強さで決まるわけではないようだ。

 友達に『桜辰に女子の制服があるんだ』と驚かれるくらいには、女子の進学は稀らしい。

 けれど桜辰高校の三年生には『姫』と呼ばれる美女が一人いると聞く。
 そして、彗くんも桜辰高校の三年生であり、その強さが認められてトップとしての最高の権力を一年生で手にしたことで知られていた。

 彼を意識していないと言えば嘘になる。
 ただ、彼がいなくても私は進学先に桜辰高校を選んだだろう。
 ――でも出来れば昔のお礼を伝えられたらうれしい。
 彗くんが私のことを覚えているとは思えないけれど。
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