最強男子はあの子に甘い
 学校に着くと『入学式』の看板はすでにボコボコにされていた。
 そのボコボコになった看板をポカンと見つめていると、桜辰に入学するんだという実感が湧いてきて、そして次第に視線を感じはじめる。
 気がつけばあっという間に桜辰の制服である黒の学ランを着た男子学生たちに私は囲まれていた。

「え……女子じゃね?」

 そんな囁きがいくつも聞こえてきて、どうやら物珍しさが視線と生徒を集めてしまったようだ。
 まあ、目立つなと言うほうが無理な話ではある。

 本当に私以外に女子が見当たらない。

 戦闘モードで囲まれているわけではない雰囲気が救いだが、遠巻きに囲まれてどこから抜け出せばいいのかわからなくなって困ってしまう。
 居心地の悪さを感じはじめたとき、何かを合図にし、急に一本道が出来はじめた。
 不思議に思いその様子を見つめていると一際、見目麗しい男子生徒がひとり。
 出来た道を歩いて私の元へとゆっくりと歩み寄って来る。
 にこやかに微笑みを浮かべる彼は優しそうなのに、他の生徒たちが顔を強張らせて道を開ける姿を見る限り、只者ではないのだと悟るには十分だった。

乙部(おとべ)さんだ……」

 どこからともなく聞こえてきた名前とともに周囲がざわつく。
 そんな様子を気にも留めずに“乙部”という男子生徒が私の前で片膝をつき顔を上げると「ようこそ」と言った。
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