最強男子はあの子に甘い
 大きな声は珍しい。
 けれど、すぐに彗くんの声だとわかってしまう。
 失恋後『はい、もう好きじゃないです!』と、気持ちの切り替えなんてあっさり出来るものではない。
 むしろ失恋して自分の気持ちに気づいたようなものでもある。
 今は彗くんの声を聞くのも顔を見るのも少し苦しい。

「紗宇ちゃん、彗くん来てるよ?」

 私が気づいていないと思ったのか、湯川くんが優しく小声で教えてくれた。
 ふぅ……とゆっくり息を吐いて心を落ち着かせ、私は恐る恐る顔を上げる。
 
 教室の入り口へ呼び出した永田くんに何か言いながら、彗くんが軽く彼に蹴りを入れていた。
 立ち入り禁止の屋上へ私に侵入をすすめた件を叱っているのかもしれない。

 永田くんと彗くんの聞こえないやりとりをぼんやり眺めていると、不意に彗くんが私のほうへと視線を向けた。
 けれど目が合った途端、私はあからさまに視線を逸らしてしまう。
 視界の隅では湯川くんが心配そうにそんな私を見つめていた。
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